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地方自治体作成の「初盆名簿」と個人情報保護(政教分離の検討も含めて)
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
○N町においては、死亡届受付の際に「初盆名簿」登載用に故人・喪主・公民館名・小組名を記載してもらって、毎年8月初旬に「初盆名簿」冊子を町内全体で回覧しているが、個人情報保護の観点から何か問題になるでしょうか?
「初盆名簿」を不要とする町民の意見では、個人情報保護の観点以外に、政教分離の観点から問題があるとする意見も出ているのですが、かかる観点から「初盆名簿」の作成回覧は、違法となるのでしょうか?
1.個人情報の取得について
個人情報を取得する場合には、「取得前」に利用目的を本人に明示する必要があります。個人情報を取得した場合、あらかじめ本人に告げた利用目的の達成に必要な範囲でしか利用できません。
従って、「初盆名簿登載用」と使用目的を明示した取得であれば(提出用紙に「初盆名簿に登載させていただきます。」と使用目的が記載してあれば)、個人情報保護上の問題は生じません。
しかしながら、かかる取得手続きを経ないで、公務員が死亡届出から「初盆名簿登載用」として故人・喪主・公民館名・小組名を名簿用紙に転記する方法の場合には、死亡届出の使用目的(戸籍住民票上の処理目的)を逸脱する取得となるか、目的外使用となるので、個人情報保護条例に違反する取得又は使用になる可能性があります。
2.個人情報の配布(初盆名簿の作成及び配布)について
(1)上記のとおり、個人情報取得時に「初盆名簿登載用と使用目的を明示した取得」であれば、初盆名簿の作成及び配布は、個人情報保護条例違反とはなりません。
(2)取得時にかかる使用目的を明示していない場合には、初盆名簿回覧(配布)は個人情報保護条例違反となる可能性があります。
3.初盆名簿の作成及び配布と政教分離について
(1)「政教分離の原則」とは、国家と宗教は切り離して考えるべきであるとする原則のことをいいます。政治と宗教が結びついた場合、国が特定の宗教に有利となるよう国政を行うことになるため、特定の宗教以外の宗教は、排除されていくおそれがあることから、信教の自由を保障するためにこの原則があります。
国家の行為が政教分離違反であるか否かを判断する際に採用される基準として、目的と効果の2つに着目し政教分離に反するか否かを判断します。これを「目的効果基準」と言い、①その行為の目的が宗教的意義を持ち、かつ、②その行為の効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為であるかどうかで判断することになります。そもそも、宗教的意義を有さない行事は「習俗」とされ「宗教儀式」ではないとされます。
(2)「習俗」といえば、一般に節分、七五三、雛(ひな)祭り、端午(たんご)の節句、各種の村祭り、死者の葬りの際の北枕とか副葬品、そして正月の門松などがそれに該当するでしょう。
日本の「初盆」は、日本国内においては、仏教行事なのでしょうか、神道行事なのでしょうか、儒教行事なのでしょうか、それとも習俗にすぎないのでしょうか?
初盆は、先祖の供養であり、供養の方式が仏教上も神道上も宗教的儀式で執り行われる限りでは、供養儀式自体は「①その行為の目的が宗教的意義を持つ」ということになり、単なる「習俗」とはならないでしょう。しかし、お盆の行事全体そのものが宗教行為かと言えば、その点は「習俗」という面が強く表れているのではないかとも考えられます。そこで、問題は「②その行為の効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為であるかどうか」ですが、初盆や先祖供養は本来の釈迦仏教の考えではなく、日本の古来の先祖霊崇拝の文化土壌に日本仏教や神道や儒教の考えが融合したものと評される面もあり、特定の宗教としての行事ではないことから、日本人一般の社会的通念からすれば、初盆の行事自体が「その行為の効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為」ではないと解釈される余地があります。
そもそも、N町における初盆名簿の作成及び配布は、その効果としては、宗教的行事を促す契機になるという意味で、宗教的行事に間接的に資する側面があるとしても、それ自体は「①宗教的儀式」そのものでもなく、かつ「②一定の宗教を援助、助長をする」効果についても、宗教とは無関係な広報としての行政サービスとしての目的による間接的かつ付随的なものにとどまっており、これが「宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるようなものである」とは到底認められないものであり、政教分離の原則に反するものではないと考えます。
(3)類似事案の判例として、東京地裁令和3年2月18日判決(判例地方自治No483-43)があります。
これは、警察署長が宗教法人のお寺が主催する節分会に参加して護摩祈祷と豆まきをした上、警察署警察官複数が雑踏警備に配置されていたという事案で、市民から、それらの参加行為や警備協力は政教分離の原則に違反する行為であるとして、その時間相当分の警察署長及び配置警察官への給与支出と出張交通費等の支払いが違法な財務会計上の行為であるので不当利得返還をすべきであるとして住民訴訟を提起された事案です。
裁判所の判断は、
「本件の警察署長等の護摩祈祷と豆まき参加行為は、宗教との関わり合いの程度が我が国の社会的文化的諸条件に照らし、信教の自由の保障の確保という制度根本的目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法上の政教分離原則及びそれに基づく政教分離規定に違反するものでない。雑踏警備の実施について、結果として本件宗教儀式の実施に資する面があったとしても、その効果は、宗教とは無関係な市民の安全という目的の実現に伴う間接的付随的なものにとどまっており、特定の宗教を援助、助長、促進し又は圧迫、干渉等を加えるようなものとは認められないというべきであるから、信教の自由の確保という制度根本的目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法第20条3項の宗教活動にあたるとは言えず、憲法第89条の政教分離原則に違反するものとは言えない。」としています。
(4)このような判例からみても、N町における初盆名簿の作成及び配布は、宗教行為そのものでもありませんので、信教の自由の確保という制度根本的目的との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、憲法第20条第3項の宗教活動にあたるとは言えず、憲法第89条の政教分離原則に違反するものではないと考えられます。
以 上
民事訴訟におけるDNA情報(DNA鑑定書)の取扱い
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
前回、刑事捜査手続き上の「DNA情報」の取扱いを説明しましたので、それに続き、民事訴訟上での「DNA情報」の取扱いについて基本的な点をお話しておこうと思います。
1.DNAとは?
DNA(デオキシリボ核酸)は、生物の細胞の核内に存在し、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の部品でできていて、終生不変であり、私たちの「体を作る設計図」とも言われています。すべての人は指紋のように個々の特異的なDNA領域を持っているため、その特異的な領域を分析すること(鑑定)で個人の識別が可能になるとされています。
2.民事訴訟とDNA鑑定について
民事訴訟においては、DNA鑑定が問題となる典型的なものとしては、親子関係の存否がほとんどのようですが、不法行為訴訟や保険金請求訴訟などで加害者や被害者を特定するためにDNA鑑定が用いられている例もあるようです。DNA鑑定が民事訴訟の場に用いられる方法としては、多くは当事者が依頼した専門家の鑑定意見書(書証)として提出される場合(民事訴訟法第219条以下)ですが、裁判所において証拠調べとしての鑑定(民事訴訟法第212条以下)手続きで鑑定人が行った鑑定書が作成される場合もあります。前者の場合を私的鑑定(書)、後者の場合を公的鑑定(書)と呼ぶ例もあります。
3.DNA鑑定の留意点
DNA鑑定の検体としては、「毛髪」「口腔内の細胞」が一般的ですが、吸い殻 / 歯ブラシ / ヒゲ剃り / ガム / コップ・ペットボトル・缶 / ストロー / おしゃぶり / 血痕・血液 / 精液・体液・尿 / 毛髪・爪 / 生理用品 / 病理試料 / 血清 / 臓器・骨・歯 / 臍帯・胎盤 などでも可能とされています。私的鑑定、公的鑑定いずれの場合でも、鑑定実施の前提として、鑑定対象物(鑑定資料又は検体と呼ばれています。)が、DNA鑑定の対象となる特定人から適切に採取されたものであることが最も重要になります。
鑑定の結果としては、鑑定対象から採取された検体であることまで保証できるものではありませんので、民事訴訟において、DNA鑑定を証拠として採用して真否の判断に用いる場合には、鑑定結果とは別に、「鑑定された検体が、鑑定の対象となる特定人から適切に採取され、且つ採取時又はその後に汚染されないようにされたものであること」を証拠付ける必要があります。採取時の方法を画像撮影するか、第三者の立ち合いを求めた形で行うかという対応を取っておく必要があります。
4.DNA鑑定の拒否とそれに対する訴訟的対応について
民事訴訟でDNA鑑定が必要と判断されたが、当事者の一方がDNA鑑定の検体提供を拒否した場合は、どのような取扱いになるのでしょうか。
刑事訴訟においては、強制処分としての一定の令状に基づいて強制的に検体を獲得する方法が定められています。具体的には、被疑者からの鑑定資料の採取は、任意処分の場合は、口腔内粘膜等の任意提出(刑事訴訟法第221条)によりますが、強制処分の場合は、鑑定処分許可状と身体検査令状の併用(刑事訴訟法第218条、第225条)により被疑者の身体に対して直接強制力をもって行われています。
しかしながら、民事訴訟においては、そのような直接的な強制処分としての規定はありません。
民事訴訟法上の手続き規定を見てみますと、裁判所において当事者に対し証拠提出を求める方法としては、同法第223条で文書提出命令の定めがあり、第234条では、当事者が文書提出命令に従わないとき(他の証拠での立証が著しく困難となる場合も含む)は、裁判所は、当該文書の記載に関する「相手方の主張を真実と認めることができる」と定められており、検証手続きを定める第232条第1項で「第219条、第223条、第224条、第226条及び第227条の規定は、検証の目的の提示又は送付について準用する。」と規定しています。
これらの規定により、裁判所はDNA鑑定のために血液等の採取・提供を命ずることができ、当事者は、検証協力義務としての検証受忍義務(血液採取受忍義務)及び検証物提示義務(血液提供義務)があり、正当な理由のないかぎりこれを拒否できないという一般的な義務があることになります。
それでも、一方当事者が検証協力義務としての検証受忍義務(血液採取受忍義務)及び検証物提示義務(血液提供義務)に従わない場合には、間接的な強制方法として「不利益認定」として、他方当事者の主張する事実を真実と認められてしまうようになっています。例えば、不法行為訴訟で原告から「加害者は被告である」と主張されたのに対し「加害者は自分ではない」と主張して争っている被告が必要な加害者のDNA鑑定手続きとして被告自身のDNA検体を提出を正当な理由なく拒否してDNA鑑定ができなかった場合には、原告の「加害者は被告である」との主張を認めることができる(民事訴訟法第224条第3項)という結果になってしまうわけです。
これは、いわば「証明妨害」として捉えて制裁する方法になりますが、証拠に基づく真実発見よりも、民事訴訟上の信義則としての手続的正義を重視するという立場になります。
5.DNA鑑定の拒否と人事訴訟について(親子関係の存否に関する裁判等の場合)
民事訴訟の特別法として人事訴訟法があります。人事訴訟法の審理対象は「人事訴訟」(=離婚の訴え、嫡出否認等その他の身分関係の形成又は存否の確認を目的とする訴え)になります(第2条)。
この人事訴訟法第19条第1項は、民事訴訟法第224条等の規定(不利益認定規定)や自白規定の適用を明文で除外しています。このことにより、親子関係存否確認等の人事訴訟においては、親子間のDNA鑑定を拒否した場合には、拒否した当事者に必ずしも不利益に判断されるということにはなっていません。これは親子関係という身分に関する事項については、証拠に基づいて客観的に真実かどうかを見極めることを重視し、手続上の信義則違反に基づいて簡単に真実とすることはできないというものになりますので、一般的な民事訴訟としての判断方法は取らないということになります。このことはDNA鑑定の拒否に対しての民事訴訟と人事訴訟との大きな違いであることが認識されておくべきです。
但し、人事訴訟であっても、DNA鑑定を拒否したことに何ら合理性がない場合には、そのことを親子関係の存在を推認させる間接証拠として他の関連証拠と合わせて考慮すれば、親子関係の存在を認めることができるという認定をすることは実務上の事実認定方法としては許されているようです(東京地裁平成29年2月15日判決参照)ので、総合的判断をする裁判所においては、不当な結論になることはないようです。
以 上
警察取り調べでの「被疑者DNA型記録」等の採取の法的根拠を学ぼう!!
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
〇Aは、痴漢行為の迷惑防止条例違反と強制わいせつ嫌疑で現行犯逮捕され、処分保留となったが、逮捕された際の警察の捜査上で、Aの被疑者DNA記録(口内唾液の任意提出、指紋掌紋記録、写真記録(以下「3記録」という。)が作成されていた。
これは、憲法第13条で保障されているプライバシーの権利及び「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」又は「個人に関する情報をみだりに整理保管及び内部利用されない自由」を侵害するものだから、Aの人格権及び人格的利益に基づく妨害排除請求としての各記録(国に対して3記録、地方公共団体に対して指紋掌紋記録のみ)の抹消を求めたいが、抹消できるでしょうか。
1.DNAとは?
DNAは、デオキシリボ核酸の通称ですが、ヒトの細胞では核の中の染色体にあり、A(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)の4種類の部品でできています。DNAは、はしごをひねったような形をしていて、核の中の染色体の中に折りたたまれて入っており、私たちの「体を作る設計図」とも言われています。すべての人は指紋のように個々の特異的なDNA領域を持っているため、個人の識別が可能になるとされています。裁判上は、家庭裁判所での親子関係の判断や刑事裁判等での犯罪者の特定に利用されています。犯罪の被疑者として逮捕された際には、警察の捜査上で、写真記録や指紋記録以外にも、被疑者として「口内唾液の任意提出」がなされるなどしてDNA記録が作成されています。
2.ところで、法令上は末尾に示す3つの規則で定められていますが、「3記録」の抹消事由は、「本人が死亡したとき」、「記録を保管する必要がなくなったとき」とだけ定めてあり(DNA型記録取扱規則第7条、指掌紋取扱規則第5条、被疑者写真の管理及び運用に関する規則第5条)、相談事例では、Aは、被疑事件が処分保留となったとしても、無罪又は処分なしとはなっていないことから、「記録を保管する必要がなくなったとき」に該当しません。
また、「記録を保管する必要がなくなったとき」とは、「被疑事件捜査・司法手続上の必要性」ではなく、「記録を保管する必要性」であるので、「捜査が終わったから必要がなくなった」ということにはならず、捜査終了後も「将来の捜査」のために記録として保管し続ける必要性がある場合には、「記録を保管する必要性がある」ということになります。
従って、現在の法令や規則からすると、各記録のAの個人情報の抹消請求をしても認められないことになります。
3.現在の検察での被疑者取り調べでは、「3記録」が採取されているようです。警察は、十分な説明もしないまま、「任意捜査」として、「被疑者から承諾を得た」として写真撮影をし、指紋やDNAを採取していますが、「DNA採取月間」というのがあるようで、ノルマ達成のために、軽微な事件においてDNAを採取されている可能性があります。
このような、被疑者証拠の採取の実態と現在の法令や規則からすると、結局、一度警察から嫌疑を受けて「3記録」を採取されると、その証拠は「本人が死亡」するまで警察庁で管理されることになってしまいます。
4.そこで、そもそもそのような「3記録」の警察採取制度は、憲法第13条で保障されているプライバシーの権利及び「個人に関する情報をみだりに第三者に開示又は公表されない自由」又は「個人に関する情報をみだりに整理保管及び内部利用されない自由」を侵害するものであるから、Aの人格権及び人格的利益に基づく妨害排除請求としての各記録(Aの個人情報)の抹消請求により抹消されるべきであるという考え方が出てくるわけです。
個人を特定する科学的証拠に基づいて個人が罪を犯した場合の犯罪捜査と刑事司法判断を容易にする必要性はあるものの、個人を特定する科学的証拠は、犯罪に関係しない日常生活の場においても国家が国民を監視するという「監視社会」を作り出す危険があります。少なくとも、被疑者特定証拠(3記録)は、「記録を保管する必要性」ではなく、「被疑事件捜査・司法手続上の必要性」が消滅した場合には、個人情報の抹消請求により抹消されるべきであるという規定が定められるべきではないかと考える余地が出てきます。しかし、判例は、次に述べるように現制度の規則規定のままでの運用を肯定しています。
5.この事例に関しては、東京地方裁判所平成31年2月28日判決(判例地方自治464-96頁)で「被疑者DNA型記録については、犯罪捜査に資するためという目的外での収集や利用が制限され、その漏えい、滅失又は毀損を防止するために必要な措置を講じるものとされ、更に濫用的利用等については刑罰が科されることとされており、警察において、被疑者DNA型記録が目的外に使用されたり、第三者に漏えい等されたりするなどといった具体的な危険が生じているとも認めることはできない。」とされており、指紋や顔写真についても同様に制度上濫用や漏えいについては罰則等があり得ること等から、「3記録」の抹消請求を否定しています。
<参照条文>
刑事訴訟法第218条 警察法第5条 第38条 第81条
警察法施行令第13条 警察庁組織令
DNA型記録取扱規則
指掌紋取扱規則
被疑者写真の管理及び運用に関する規則(写真規則)
〇 法的根拠条文
刑事訴訟法
第218条 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、記録命令付差押え、捜索又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
2 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であって、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
3 身体の拘束を受けている被疑者の指紋若しくは足型を採取し、身長若しくは体重を測定し、又は写真を撮影するには、被疑者を裸にしない限り、第一項の令状によることを要しない。
警察法
(任務と及び所掌事務)
第5条 国家公安委員会は、国の公安に係る警察運営をつかさどり、警察教養、警察通信、情報技術の解析、犯罪鑑識、犯罪統計及び警察装備に関する事項を統轄し、並びに警察行政に関する調整を行うことにより、個人の権利と自由を保護し、公共の安全と秩序を維持することを任務とする。
2、3 略
4 国家公安委員会は、第一項の任務を達成するため、次に掲げる事務について、警察庁を管理する。
一 警察に関する制度の企画及び立案に関すること。
二から二十五 略
二十六 前各号に掲げるもののほか、他の法律(これに基づく命令を含む。)の規定に基づき警察庁の権限に属させられた事務
5 前項に定めるもののほか、国家公安委員会は、第一項の任務を達成するため、法律(法律に基づく命令を含む。)の規定に基づきその権限に属させられた事務をつかさどる。
6、7 略
(組織及び権限)
第38条
1~3 略
4 第五条第五項の規定は、都道府県公安委員会の事務について準用する。
5 都道府県公安委員会は、その権限に属する事務に関し、法令又は条例の特別の委任に基いて、都道府県公安委員会規則を制定することができる。
6 略
(政令への委任)
第81条 この法律に特別の定がある場合を除く外、この法律の実施のため必要な事項は、政令で定める。
警察法施行令
(国家公安委員会規則等への委任)
第13条 国家公安委員会が法第五条第四項の規定による管理に係る事務又は同条第五項若しくは第六項の事務を行うために必要な手続その他の事項については、国家公安委員会規則で定める。
2 都道府県公安委員会が法第三十八条第三項の規定による管理に係る事務又は同条第四項において準用する法第五条第五項の事務を行うために必要な手続その他の事項については、都道府県公安委員会規則で定める。
警察庁組織令
(刑事企画課)
第22条 刑事企画課においては、次の事務をつかさどる。
一~四 略
五 刑事資料の調査、収集及び管理に関すること。
六 略
警察法施行規則
(刑事指導室)
第23条 刑事局刑事企画課に、刑事指導室を置く。
2 刑事指導室においては、令第二十二条第二号及び第四号に掲げる事務並びにこれらの事務に関し必要な刑事資料の調査、収集及び管理に関する事務並びに同条第六号に掲げる事務のうち日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第六条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定第二十五条の規定による合同委員会との連絡に関する事務をつかさどる。
3、4 略
DNA型記録取扱規則
(作成等)
第3条 警察庁刑事局犯罪鑑識官(以下「犯罪鑑識官」という。)は、警視庁、道府県警察本部若しくは方面本部の犯罪捜査を担当する課(課に準ずるものを含む。)の長又は警察署長(以下「警察署長等」という。)から嘱託を受けて被疑者資料のDNA型鑑定を行い、その特定DNA型が判明したときは、当該被疑者資料の特定DNA型その他の警察庁長官が定める事項の記録を作成しなければならない。
2 略
(整理保管)
第6条 犯罪鑑識官は、第三条第一項の規定により被疑者DNA型記録を作成したとき又は同条第二項若しくは第三項(第四条第二項の規定により準用する場合を含む。)の規定による被疑者DNA型記録、遺留DNA型記録若しくは変死者等DNA型記録の送信を受けたときは、これを整理保管しなければならない。
2 犯罪鑑識官は、被疑者DNA型記録、遺留DNA型記録及び変死者等DNA型記録の保管に当たっては、これらに記録された情報の漏えい、滅失又はき損の防止を図るため必要かつ適切な措置を講じなければならない。
(抹消)
第7条 犯罪鑑識官は、その保管する被疑者DNA型記録が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該被疑者DNA型記録を抹消しなければならない。
一 被疑者DNA型記録に係る者が死亡したとき。
二 前号に掲げるもののほか、被疑者DNA型記録を保管する必要がなくなったとき。
2、3 略
指掌紋規則(指掌紋取扱規則)
(指掌紋記録等の作成)
第3条 警視庁、道府県警察本部若しくは方面本部の犯罪捜査を担当する課(隊その他課に準ずるものを含む。)の長又は警察署長(以下「警察署長等」という。)は、所属の警察官が被疑者を逮捕したとき又は被疑者の引渡しを受けたときは、指紋記録等及び掌紋記録等(以下「指掌紋記録等」という。)を作成しなければならない。
2 警察署長等は、身体の拘束を受けていない被疑者について必要があると認めるときは、その承諾を得て指掌紋記録等を作成するものとする。
(処分結果記録の作成等)
第5条 警察署長等は、第三条の規定により指掌紋記録等を作成した場合において、警察庁長官が定める事由に該当するに至ったときは、速やかに処分結果記録を作成し、これを警察庁犯罪鑑識官及び府県鑑識課長に電磁的方法により送らなければならない。
2 警察庁犯罪鑑識官又は府県鑑識課長は、前項の処分結果記録の送信を受けたときは、当該処分結果記録を整理保管し、又は当該処分結果記録に係る処分結果資料を作成し、これを整理保管しなければならない。
3 警察庁犯罪鑑識官又は府県鑑識課長は、その保管する指掌紋記録等が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該指掌紋記録等及び当該指掌紋記録等に係る処分結果記録又は処分結果資料を抹消し、又は廃棄しなければならない。
一 指掌紋記録等に係る者が死亡したとき。
二 前号に掲げるもののほか、指掌紋記録等を保管する必要がなくなったとき。
写真規則(被疑者写真の管理及び運用に関する規則)
(被疑者写真記録の作成)
第2条 警視庁、道府県警察本部若しくは方面本部の犯罪捜査を担当する課(これに準ずるものを含む。)の長又は警察署長(以下「警察署長等」という。)は、所属の警察官が被疑者を逮捕し、又はその引渡しを受けたときは、画像を電磁的方法により記録することにより当該被疑者の写真(以下「被疑者写真」という。)を撮影し、当該被疑者写真及び当該被疑者の氏名、生年月日その他当該被疑者を識別するために必要な事項を電磁的方法により記録したもの(以下「被疑者写真記録」という。)を作成しなければならない。ただし、当該被疑者を他の警察署長等に引き渡す場合には、被疑者写真記録の作成を省略することができる。
2 警察署長等は、身体の拘束を受けていない被疑者について必要があると認めるときは、その承諾を得て被疑者写真を撮影し、被疑者写真記録を作成するものとする。
(被疑者写真記録の抹消)
第5条 警察庁犯罪鑑識官は、その保管する被疑者写真記録が次の各号のいずれかに該当すると認めるときは、当該被疑者写真記録を抹消しなければならない。
一 被疑者写真記録に係る者が死亡したとき。
二 前号に掲げるもののほか、被疑者写真記録を保管する必要がなくなったとき。
(被疑者写真の閲覧)
第7条 警察署長等は、被疑者の特定その他犯罪捜査のため特に必要があると認めるときは、必要な限度において、被害者その他必要と認める者に対して被疑者写真を閲覧させることができる。
以 上
騙された公務員も損害賠償責任があるの?~印鑑登録の変更(廃止と申請)手続きに際して~
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
<質問> ○○市の市民課に勤めている地方公務員Yです。Aという人物が、市民Xさんの運転免許証を偽造(氏名はXさんで写真はAに変造)した免許証を示して、Xと称して、従来のXさんの印鑑登録の廃止届と新たな印鑑登録申請をしてきました。免許証の氏名と住所確認をして写真とAの顔を確認したので、印鑑登録の手続きを進めたのですが、まず、運転免許証を免許証識別装置(EXC-2500ZR2は約3秒で真贋判定を行う事ができる)に挿入したら「不可」の判定が出ました。免許証の裏に色々とシールなどが貼ってあり、厚さが異なっているので「不可」の反応が出たのだろうと考え、Aに対して「免許証に加工などはしていませんよね。」と聞いたところ、Aが「何もしていない。」と答えたので、手続きを進めました。印鑑登録申請書の「住所」の一部が運転免許証に書いてある住所と異なっていましたが、申請書の住所の方が書き間違いだと思って、その部分を私のほうで事実上訂正して手続を完了し、新たなX名義の印鑑登録証明書をXさんだと信じていたAに交付してしまいました。
その結果、悪人Aは、司法書士と通じてXさんの不動産(時価1億円)を売却してその代金をだまし取って逃げたようです。市民Xさんは、弁護士に依頼して、不動産登記の取戻裁判をして不動産を取り戻せたようですが、裁判にかかった弁護士費用500万円と慰謝料200万円を私に請求してきました。
一番悪いのはAであり、Aに騙されただけの安月給の一公務員である私が、このような損害賠償を払う責任があるのでしょうか。
<回答>
1.このような悪い奴が仕組んだ犯罪の場合には、一番悪いA(悪人A)が全部の責任を負わなくてはならないはずです。この場合、「被害者」は市民Xさんであり、土地を買ったのに取り戻された売買相手の方や売買登記に関与した司法書士、そして騙されて印鑑証明書を作らされ交付したYさんでしょう。
しかし、悪人Aが逃げてしまっている場合には、その被害者間で損害賠償請求が起こってしまいます。悪意がなくても誰かに過失があれば、その人が「不法行為責任」を負うという解決の仕方が民法などの法律に規定されているからです。
公務員の場合には、国家賠償法第1条第1項に「国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。」との定めがありますので、公務員Yさんに過失があれば、薄給のYさんではなく、Yさんが勤めている地方公共団体である○○市が賠償責任を負わされることになります。Yさん個人は原則として賠償責任を負いませんので安心してください。
でも、公務員はミスしても個人で賠償しなくていいなどと安易には考えないでください。同法第1条第2項に「前項の場合において、公務員に故意又は重大な過失があつたときは、国又は公共団体は、その公務員に対して求償権を有する。」との定めがあります。ひどいミスの時は、この規定により○○市から賠償分を個人で負担せよという取り扱いがなされますので、日頃からの慎重な事務処理を心がけてください。
2.それでは、本件の場合、Yさんの印鑑登録業務の処理について国家賠償法第1条第1項の「故意又は過失によって違法」であったのでしょうか。悪人Aに騙されたことが「過失で違法」なのでしょうか。Yさんが悪かったのでしょうか。それを検討しましょう。
まず、過失責任とは、本来注意しながら仕事をすべき立場にある人が、相手方に不当な損害等の結果が生じることが気を配れば分かったのに、そのような注意や気配りをしなかったから、不当な結果が生じたという場合の法的責任を言いますので、その人に「注意義務」があり、「不当な結果の予見ができたこと又は予見可能性があったこと」が過失責任の要件になります。公務員は本来市民に対して法律に従って適正な処理をする立場にありますので、ご相談の事例の場合には、Yさんにおいて、市民課窓口に来ている悪人Aが市民Xでなく、運転免許証は偽造されているのではないかと気づく機会があったかどうか(不当な結果又は不当な結果の回避について予見又は予見可能性があったかどうか)がYさんの「過失責任」の有無の大前提になります。
(1)この点、運転免許証識別装置で「不可」と出たことは「予見可能性」があったことを意味します。仮に、運転免許証の裏にシールなどを貼った場合等に本物でも「不可」と出る経験をしていたとしても、特に真正なものであることの積極的な理由がないかぎり、「不可」の検査結果を「真正」と判断するのには合理性は無いように思います。
(2)次に、免許証の住所と印鑑登録申請書の住所の一部が違っていた点です。A本人が正確な住所を書けなかったということですから、窓口に来ている人物が市民Xでないかと疑うことが可能になります。
(3)Yさんとしては、以上の点を疑った結果、Aに対して「免許証に加工などはしていませんよね。」と聞いて、Aが「何もしてない。」と答えただけで手続きを進めていますが、運転免許証の確認や本人確認としては、生年月日、干支、家族構成などを尋ねてみることも容易であるし、家族への連絡をしてみるという方法もあり得ますので、確認方法としては不十分だった(すなわち、注意義務を十分に果たしていない)と言われる可能性があります。
(4)このような事例が問題となった、さいたま地裁平成30年9月28日判決(判例時報2410-63)は、次のように判断しています。
(判旨)
「本件についてみると、原告を名乗る申請者Aは、本人確認書類として原告名義の運転免許証(本件免許証)を提示したこと、本件免許証には申請者である原告の住所として「Y市I区L(以下略)」と記載されていたこと、埼玉県公安委員会が発行する運転免許証の住所表示は「Y市L町○丁目○番○号」と記載されること、原告を名乗る申請者Aが作成した申請書には「Y市I区N(以下略)」と記載されていたこと、上記のとおり本件免許証には町名が「L」と記載され、照合による情報においても町名は「L」であったこと、本件識別装置に本件免許証を挿入したところ「不可」と表示されたこと、Y市の担当職員はAを窓口に呼んで運転免許証を加工しているかを尋ねたところ、加工していないと回答したこと、担当職員は運転免許証の厚さによっては「不可」と表示されるため、今回も偽造によるものではないと判断したこと、そして、申請書の「N」を「L」と訂正し、申請者Aが原告本人であると判断して、所定の印鑑登録手続をしたことは上記認定のとおりである。
印鑑登録申請を担当した部署において、埼玉県公安委員会の発行する運転免許証の住所表示が「○丁目○番○号」であり、申請者により提示された運転免許証が上記表示となっているかを審査して運転免許証の偽造の有無を確認することが規定されているのでなければ、担当職員がその知識や経験のみで運転免許証の住所表示から偽造の有無を審査して判断することは容易でないといえる。
しかしながら、これに加えて本件では、申請書に記載された住所と運転免許証に記載された住所、照合した登録票の住所が異なっており、原告の年齢を考慮しても、住所の町名の記載を誤ることは多くないと考えられ、担当職員は申請者Aが原告本人であるかを疑う機会があったというべきである。しかも、運転免許証の偽造を検知する本件識別装置では本件免許証が不可と判定されており、本件免許証が偽造された可能性があることを疑うことができる状況にあった。
ところが担当職員は、申請者が住所の記載を誤ることがあるとの理由で申請書の住所を誤記として訂正してしまった。申請者が住所の記載を誤ることがあるにしても、本人が誤ったと判断する根拠があるのでなければ、申請書に住所を記載させて本人の同一性を確認する意味はなくなってしまうものというほかない。
また、担当職員の質問に対して申請者Aが加工していないと回答し、運転免許証の厚さによっては本件識別装置が不可と表示することがあったとしても、本件免許証が偽造されたものでないと判断できるだけの十分な根拠があったものではない。
そして、申請者Aが原告本人であるか、提示された運転免許証が偽造されたものではないかという疑問が生じたときは、担当職員としてさらに本人であるかどうかの審査をすることができた。例えば、担当職員は、生年月日、干支を質問したり、住民票を確認できるのであれば、家族構成、転居日等を質問したりすることができる。このような質問でも疑義が解消されないときは、申請者の了解を得て、家族に連絡を取るなどの方法もあり得るところである。本件の申請者Aは、申請書の住所の記載を誤っており、申請書の記載事項以外の質問をすることによって申請者Aが原告本人でないことが判明した可能性が高いといえる。
以上のとおり、Y市の担当職員は、印鑑登録の申請者Aが原告本人であるかどうかを確認する職務上の義務を負っていたところ、申請書記載の住所が本件免許証および照合した情報の住所と異なり、運転免許証の偽造の有無を判定する本件識別装置でも不可と表示され、申請者Aが原告本人ではないと疑うに足りる状況にありながら、運転免許証に加工していないかと質問したほかに本人であるかどうかの審査をせず、本人であれば容易に回答することができる質問によっても申請者Aが原告本人でないことが判明した可能性が高いといえるのであるから、Y市の担当職員は職務上の注意義務を尽くしたものとはいえず、本人と判断して所定の印鑑登録をした手続は違法なものと解することが相当である。」
この判例の結果は、公務員Yさんにおいては、「私は騙された被害者なのに、なぜ法的責任を負わされるのか?」という思いになるでしょう。
そこで、被害者の立場になる者同士の損害賠償の問題のときには、最終的な被害者である市民Xさんにも何らかの過失があったのではないかという「過失相殺」(民法第722条第2項)の処理がなされて損害賠償額が減額される場合が多々あります。相談事例では市民Xさんに、免許証を悪人Aに改ざんされるような免許証の保管が不十分であったとか、その他Xさんにおいて悪人Aの行為を予見できた事情等がある場合には、被害者Xさんの過失責任も当然に考慮されることになりますので、被害者相互間においても公平的な解決が図られる制度にはなっています。
以 上
住民基本台帳事務処理とDV被害者の支援措置②~DV加害者の代理人弁護士からの戸籍附票写しの交付申請があった場合の対応~
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(前号から続く)
1.具体的事案におけるY市長の処理
DV加害者(A男)の代理人弁護士Xが、和解離婚後のDV被害者(B女)の仏壇や衣類・タンス等の引渡し協議のために、B女の戸籍附票(住所が記載されている)の写しの交付申請をしたという前回の具体的事案において、申請を受けたY市長はどのように対応したでしょうか。
Y市長は、既にB女に対するDV被害者支援措置を開始していたこと、申請者弁護士Xからは申出書に記載された「離婚訴訟代理業務」「離婚裁判の後処理のためにB女と連絡を取る必要があるがB女が所在不明となった」という内容以外にはXからの詳細な説明はなく、またXに対して説明を求めることもなく、XがA男の離婚訴訟事件の代理人として本件交付申請を行っていることから、戸籍附票の写しを交付した場合、A男に対してB女の住所を伝えるおそれが大きい者による申請である(加害者からの申請があった場合と同様である)と判断して、住民基本台帳法第20条第4項で規定されている「当該申出を相当と認めるとき」に該当しないとして戸籍附票の写しを交付しないとする処分(交付拒否処分)をしました。
なお、この際、Y市長はXに対して、B女につきDV被害者支援措置が開始されているという事実は説明しないままでの交付拒否処分をしていました。
弁護士Xは、Y市を相手に、本件交付拒否処分は裁量権の逸脱・濫用であり違法であるとして、交付拒否処分の取り消しを求める行政訴訟を提起しました。
2.結論の分かれた判例
さて、Y市長がDV加害者(A男)の代理人弁護士Xの戸籍附票の写しの交付申請を、A男の交付申請と同じであるとして、住民基本台帳事務処理要領の定める取り扱いに基づき交付拒否したことは、違法なのでしょうか。自治体の現場としては、戸籍附票の写しについて権利行使や義務履行のために弁護士が職務上請求をしてきた場合の有用利用の趣旨とDV被害者の安全の保護の趣旨との対立している状況において、その交付の可否についての判断は難しいものがあると思います。
この事案では、裁判所の結論も分かれています。一審地裁判決は、「交付拒否処分は違法であり、交付すべきであった」としていますが、二審高裁判決は、「交付拒否処分は適法であり、交付しない取扱いでよい」としています。あなたは、どちらの見解を支持されますか?
(1) 和歌山地裁平成29年6月30日(判例時報2375・2376号189頁)
一審地裁判決の要旨は次のとおりです。
①(違法判断基準)市町村長は、DV加害者からDV被害者の戸籍附票写し交付申出がされた場合でも、戸籍附票の写しを交付する必要性が高く、かつ被害者の保護の見地を含む諸事情を総合考慮した上で交付することに相当性が認められる場合に、支援措置を講ずることとした者(被害者)に係る戸籍の附票の写しの交付申出に対し、利用目的を適切に審査することなく、加害者による申出(又は依頼者が加害者である申出)であることのみを理由に戸籍の附票の写しの交付を安易に拒絶することは、住民基本台帳法の解釈として許される裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものとして違法となる。
②(比較考量事情)A男は、離婚和解条項で定められた仏壇・タンス等の引取りが実現する前に、B女が代理人弁護士との委任関係を終了したことからB女への連絡手段を失っており、代理人弁護士Xが戸籍の附票の写しを取得することによりB女の住所を知る以外にB女と仏壇等の引渡しの協議をし又は提訴する方法はないことから、Xが戸籍の附票の写しを取得する必要性は高い。
他方、B女は、離婚和解において仏壇等の授受についてA男と協議する旨合意しているから、A男又はその代理人と協議できる状況を整える信義則上の義務があるのに、自分の代理人弁護士を解任して以降、A男側と連絡を絶って、協議することを拒絶している。(B女の保護性は弱いと判断している?)
従って、A男は住民基本台帳法第20条第3項第1号の「自己の義務を履行するために戸籍の附票の記載事項を確認する必要がある者」に該当し、その代理人であるXにおいて戸籍の附票の写しの交付を受ける必要性が高く、交付することに相当性が認められる。
③(行政裁量行為での調査不足)Xは弁護士であり、基本的人権を擁護し社会正義を実現することを使命とする法律専門職であることからすれば、加害者の親族等などの弁護士以外の代理人からの場合と異なり、Y市長は、Xに対して、B女が支援措置の対象者であることを伝えた上で、B女の戸籍の附票の写しをA男に交付しないという方法やB女の住所をA男に伝えないように誓約してもらう等の方法により、被害者の保護に支障が生じないようにして戸籍の附票の写しの交付申出の目的を達することも可能であったにもかかわらず、Xに有用使用の目的等につき何ら質問や調査もせずに、本件処分(交付拒否)をしているのであるから、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものとして違法というほかない。
なお、本件では、申出書に「離婚訴訟代理業務」「離婚裁判の後処理のためにB女と連絡を取る必要があるがB女が所在不明となった」と記載されているのであるから、事務処理要領第6の10コ(イ)の「申出に特別の必要が認められる場合」にあたる事情が存する可能性について容易に予測できたのであるから事実確認をする必要性が高かったと言える。
(2) 大阪高裁平成30年1月26日(判例時報2375・2376号182頁)
一審地裁判決に対して、住民基本台帳事務処理要領による取扱いを重視し、DV加害者の代理人弁護士による戸籍附票の写しの交付申請もDV加害者本人による申請に準じて取り扱うという解釈をして、DV被害者としての支援対象者に支援措置の必要性があるので、交付拒否は適法であるとしています。二審高裁判決の要旨は次のとおりです。
①(事務取扱要領の法的拘束性)住民基本台帳法第3条では「市町村長は、常に、住民基本台帳を整備し、住民に関する正確な記録が行われるように努めるとともに、住民に関する記録の管理が適正に行われるように必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」と定められており、住民に関する記録の適正な管理を図り、住民のプライバシー保護に配慮することは、市町村長の基本的な責務であり、市町村長はその責務を果たすため必要な措置を講ずるように努めなければならないのであり、他方、同法第31条第1項で「国は都道府県及び市町村に対し、都道府県は市町村に対し、この法律の目的を達成するため、この法律の規定により都道府県又は市町村が処理する事務について、必要な指導を行うものとする。」と定められていることから、DV被害者等への支援措置の運用に関しては、国より事務処理要領が定められているのであるから、各市町村長は、その定めが明らかに法令の解釈を誤っているなどの特段の事情がない限り、これにより事務処理を行うことが法律上求められているといえる。
事務処理要領第6の10によれば、市町村長はDV被害者等の保護を目的として、住民基本台帳法第20条第4項等に基づき支援措置を講ずるものとされ、加害者とされている者からの戸籍附票の写しの交付申出については、原則として同条第3項各号に掲げる者に該当しないとして同法に基づきこれを拒むとするものであり(平成16年5月31日総行市第218号質疑応答)、これは、住民のプライバシー保護に配慮する住基法の目的に合致すると共に、DV被害者の適切な保護を図る責務を果たすという配偶者暴力防止法第2条、第9条の観点からも合理性を有するものであるから、事務処理要領第6の10は住基法の解釈を誤ったものということはできない。従って、市町村長はDV被害者等に係る戸籍の附票の写しの交付については、事務処理要領第6の10に従って運用し、裁量権を行使すべきこととなる。
②(裁量判断~比較考量~)加害者から依頼を受けたことが明らかな代理人弁護士からの戸籍の附票の写しの交付申出は、加害者本人からの申出がなされた場合に準じて扱われるべきであり、支援措置としての戸籍附票の写しの交付誓約は、支援対象者(被害者)について支援措置の必要性がある場合に、戸籍の附票の写しの記載が加害者に知られることにより、支援対象者の生命又は身体に危険が及ぶ可能性をできる限り排除しようとするためのものであり、目的達成の手段として不相応な制約ということはできない。
本件申出書に記載された利用目的は、訴訟事件の事後処理のためにB女と連絡を取る必要がある(仏壇等の引取りの協議をするための連絡)というにすぎず、本件申出以後の確認では、B女はA男の代理人弁護士Xから連絡を受けることすら拒否しており、その結果、代理人弁護士に対して戸籍の附票の写しを交付することは相当でないとして、交付拒否した本件処分は、Y市長の裁量権を逸脱し、濫用したものということはできない。
③(結論)原判決は相当でないから、本件控訴に基づき原判決を取消し、A男代理人弁護士Xの請求を棄却する。
3.地方自治体担当者の苦悩と基本的な対応について
地方自治体の業務には、市民の紛争当事者の一方と他方から挟み撃ちの状態になる業務が多くあります。本件のように、事後的に判断できる裁判においてさえ、考え方や結論が異なる事案を、地方自治体の担当者は的確に判断して戸籍付票の写しの交付をするか拒否をするかを決める立場に立ちます。判断に困る場合には、基本的には立ち止まる形での処理(本件では拒否しておく)でいいのではないかと思います。
そのことで、後に裁判で拒否したことが違法であると判断されたとしても、それは担当者個人の責任ではないと考えられます。その判断は法的にも難しい場合には、仮に拒否処分が違法だと判断されたとしても、判例上は、当該公務員には不法行為としての故意又は過失がないという認定がなされ、結局国家賠償法による賠償請求は認められないことが多くあるからです。
以 上
住民基本台帳事務処理とDV被害者の支援措置①~DV加害者の代理人弁護士からの戸籍附票写しの交付申請があった場合の対応~
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
1.住民基本台帳法による戸籍附票交付請求制度
戸籍附票には、戸籍記載者の住所履歴や現在の住所が記載されていますが、誰でも自由に戸籍附票の写しの交付を受けられるわけではありません。住民基本台帳法第20条では、「戸籍の附票に記録されている者又はその配偶者、直系尊属若しくは直系卑属」(同条第1項)の他、「戸籍の附票の記載事項を利用する正当な理由がある者」(同条第3項第3号)、「特定事務受任者(弁護士・弁護士法人・司法書士等)から、受任している事件又は事務の依頼者が前項各号に掲げる者に該当することを理由として、戸籍の附票の写しが必要である旨の申出があり、かつ、当該申出を相当と認めるときは、当該特定事務受任者に当該戸籍の附票の写しを交付することができる。」(同条第4項、第12条の3第3項)とあり、弁護士も依頼者から具体的事件の受任している場合で必要性がある場合には、市町村長に対して、第三者の戸籍附票の写しの交付申請をして、第三者の居住先等を知ることができる仕組みになっています。
2.具体的事案
次のような場合には、市町村長は、代理人弁護士による戸籍附票写しの交付請求に応じることができるのでしょうか。それとも交付拒否をすべきでしょうか。
(1)A男とB女は夫婦であり、A男のB女に対する暴力による夫婦不和により、B女の避難別居(居所を明らかにしない)状態での離婚訴訟の末、離婚和解が成立した。
(2)和解条項で「A男は和解成立後、A男宅にあるB女先祖の仏壇や衣類・タンス等をB女が引き取ることを認め、引取り日時・場所等は別途協議して定める」とあったので、B女との協議を試みたが、和解離婚時のB女の代理人弁護士から「訴訟終了によりB女との委任関係はなくなるので、今後はB女と直接連絡して協議して欲しい」と言われていたことから、B女の弁護士を通じて協議ができなくなり、B女の住所を調査する必要があった。
(3)A男は、離婚訴訟の代理人であったX弁護士に、B女の住所調査を依頼し、X弁護士は、請求者をXとする交付請求書(「離婚訴訟代理業務)依頼者A男)によりB女にかかる戸籍附票の写しの交付請求をした。
(4)B女は、離婚訴訟前からY市に対しDV被害者としての支援措置の実施を求める申出をし、Y市長は警察署等の第三者機関から意見を聴取し、B女に対しDV被害者としての支援措置を開始していた。B女は訴訟後も支援措置ないしその延長を受けたい旨を申し出ると共に、A男の代理人弁護士からの連絡を受けることも拒否する旨の連絡をしている。また、B女は裁判所の離婚和解時において、仏壇等の引取り協議はしないままでよいとの意向を示している。
3.DV被害者に対する支援措置とは?
配偶者でなくなった者の戸籍附票の写し交付申請要件の「正当な理由」や職務上の請求要件の「相当と認めるとき」の解釈に影響を与えるものとして、平成16年5月31日「住民基本台帳事務処理要領の一部改正について(通知)」(法務省民一第1581号)による「ドメスティック・バイオレンス及びストーカー行為等の被害者を保護するための支援措置」制度があります(いわゆる「DV被害者等支援措置」)。
これは、配偶者等から暴力等を受けて、警察等の第三者機関により警告や保護命令等が実施されている被害者に支援措置申出があった場合に、市町村長が住民票や戸籍附票写し等の本人以外からの交付申請に対して、市町村長が、その使用目的等の厳格な審査を行って交付するか否かを検討し交付拒否する場合があるという制度です。その結果、DV等の被害防止のために、DV加害者等に対しては交付申請要件の「正当な理由」や職務上の請求要件の「相当と認めるとき」に該当しないとして、戸籍附票の写しの交付を拒否し、被害者の現在の住所・居所等を知らせないという運用がなされることになります。
4.問題点
このような「支援措置」を行っているB女に対して、DV加害者であるA男の代理人弁護士(Ⅹ)から、B女がどこに住んでいるかの判明する戸籍附票の写しの交付申請があった場合、市町村の担当者は、どう対応すべきなのでしょう。
住民基本台帳事務処理要領の第六の10にその支援措置に関する以下のような規定があります。
支援措置
(ア) 住民基本台帳の一部の写しの閲覧の申出に係る支援措置
A 市町村長は、支援対象者に係る住民基本台帳の一部の写しの閲覧について、以下のように取り扱う。
(A) 加害者が判明しており、加害者から申出がなされる場合(閲覧者、閲覧事項取扱者の中に、加害者が含まれている場合を含む。)
法第11条の2第1項各号に掲げる活動に該当しないとして申出を拒否する。
(B) 支援対象者本人から申出がなされた場合
支援対象者本人からの閲覧の申出については、対象となる住民が氏名等により特定されているものであるため、閲覧制度ではなく、住民票の写しの交付制度により対応することが適当である。
(C) その他の第三者から申出がなされた場合
加害者が第三者になりすまして行う申出に対し閲覧させることがないよう、十分留意して厳格に本人確認を行うことが適当である。
また、加害者の依頼を受けた第三者からの閲覧に対し閲覧させることがないよう、利用の目的等について十分留意して厳格な審査を行うことが適当である。
なお、加害者が国又は地方公共団体の機関の職員になりすまして閲覧を請求することも考えられるため、法第11条に基づく請求であっても、閲覧者については、十分留意して厳格に本人確認を行うことが適当である。
B 市町村長は、その判断により、閲覧申出において特別の申出がない場合には、支援対象者を除く申出であるとみなし、支援対象者に係る部分を除外又は抹消した住民基本台帳の一部の写しを閲覧に供することとして差し支えない。なお、この場合、市町村長は、閲覧申出用紙に明記する等により、あらかじめその旨を申出者に明らかにする。
ただし、このような取扱いをする場合にでも、国又は地方公共団体の機関による請求の場合及びその他の者による支援対象者に係る閲覧を求める特別の申出の場合には、Aの例により取り扱う。
(イ) 住民票の写し等及び戸籍の附票の写しの交付又は申出に係る支援措置
市町村長は、支援対象者に係る住民票(世帯を単位とする住民票を作成している場合にあっては、支援対象者に係る部分。また、消除された住民票及び改製前の住民票を含む)の写し等及び戸籍の附票(支援対象者に係る部分。また、消除された戸籍の附票及び改製前の戸籍の附票を含む )の写しの交付について、以下のように取り扱う。
(A) 加害者が判明しており、加害者から請求又は申出がなされた場合
不当な目的があるものとして請求を拒否し、又は法第12条の3第1項各号に掲げる者に該当しないとして申出を拒否する。
ただし、(ア)-A-(C)に準じて請求事由又は利用目的をより厳格に審査した結果、請求又は申出に特別の必要があると認められる場合には、交付する必要がある機関等から交付請求を受ける、加害者の了解を得て交付する必要がある機関等に市町村長が交付する、又は支援対象者から交付請求を受けるなどの方法により、加害者に交付せず目的を達成することが望ましい。
(B) 支援対象者本人から請求がなされた場合
加害者が支援対象者本人になりすまして行う請求に対する交付を防ぐため、代理人若しくは使者又は郵便等による請求を認めないこととする。ただし、特別の必要がある場合には、あらかじめ代理人又は使者を支援対象者と取り決める、支援対象者に確認をとるなどの措置を講じた上で、請求を認めることとする。
また、第2-4-(1)-①-ア-(イ)に準じて本人確認をより厳格に行う。
ただし、市町村長が当該措置を不要と認める者については、この限りでない。
(C) その他の第三者から申出がなされた場合
加害者が第三者になりすまして行う請求に対する交付を防ぐため、第2-4-(1)-①-ア-(イ)に準じて本人確認をより厳格に行う。また、加害者の依頼を受けた第三者からの請求に対する交付を防ぐため 、(ア)―A―(C)に準じて利用目的についてもより厳格な審査を行う。
ただし、市町村長がこれらの措置を不要と認める者については、この限りでない。
5.この事務処理要領によれば、本件具体的事案の場合には、A男や弁護士Xにおいては提出先のある事案ではないので、(イ)-(A)のただし書きの「請求事由をより厳格に審査した結果、請求に特別の必要があると認められる場合でも、加害者に交付せず目的を達成することが望ましい。」との原則からすれば、加害者代理人弁護士(X)にも交付しないか、または、代理人弁護士(X)のみの範囲で使用し、加害者A男には知らせないという制限付きで交付するということを検討することになるでしょう。
次回、実際の裁判ではどういう結論になったかを論じていきます(次号に続く)
以 上
公務災害補償における通勤災害の「逸脱・中断」の例外とは?
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
<事例>
Aさんは、普通自動二輪車での通勤途上、通勤道路沿線にあるコンビニエンスストアに立ち寄り当日の昼食を購入し、同店舗の駐車場から通勤道路に入ろうとした際に、駐車場内で自動車と衝突し、普通自動二輪車ごと転倒し左膝関節骨折等の怪我を負った。通勤災害として治療費・休業損害の補償を受けられるか。
1.お正月も終わり、御用始め・仕事始めと共に通勤生活が始まりましたが、朝方の通勤時には多くの通勤者がコーヒーや軽食を求めてコンビニエンスストアに立ち寄る姿を見かけます。
今回は、公務員の公務災害補償制度における通勤災害について学んでおきましょう。
(1)地方公務員災害補償法で、次のような定めがあります。
第1条「地方公務員等の公務上の災害(負傷、疾病、障害又は死亡をいう。以下同じ。)又は通勤による災害に対する補償(以下「補償」という。)の迅速かつ公正な実施を確保する」(一部省略)
第2条第2項「この法律で「通勤」とは、職員が、勤務のため、次に掲げる移動(代表的なものとして「一 住居と勤務場所との間の往復」が挙げられている)を、合理的な経路及び方法により行うことをいう」(一部省略)
同条第3項「職員が、前項各号に掲げる移動の経路を逸脱し、又は同項各号に掲げる移動を中断した場合には、当該逸脱又は中断の間及びその後の同項各号に掲げる移動は、同項の通勤としない。ただし、当該逸脱又は中断が、日常生活上必要な行為であつて総務省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合は、当該逸脱又は中断の間を除き、この限りでない。」
(2)これを分かりやすくまとめると、次のようになります。
① 通勤災害と認められるためには、公務員が勤務の為、住居と勤務場所との間を合理的な経路及び方法により往復することにより当該災害(事故等)が発生したものでなければなりません。
② 合理的な往復の経路であっても、「逸脱」又は「中断」した場合には、逸脱又は中断した間はもちろん、その後通常の往復経路に戻った場合でも通勤災害にはなりません。
③ しかし、経路からの「逸脱又は中断」が「日常生活上必要な行為であって、やむを得ない事由により行うための必要最小限度のものである場合(地方公務員災害補償法施行規則第1条の5「日用品の購入その他これに準ずる行為」等)には、当該逸脱又は中断の間を除いて、通勤災害と認められます。
(3)さらに解釈を細かく検討してみましょう。
① 「逸脱」とは、通勤とは関係のない目的で合理的な経路から逸れることをいい、「中断」とは、合理的な経路上において、通勤目的から離れた行為を行うことをいいます。したがって、通勤の途中で劇場に寄って映画を見たり、酒屋で一杯飲みをしたりする場合は、逸脱又は中断に該当し、当該逸脱又は中断後は通勤とはみなされません。
② 地方公務員災害補償法施行規則の「日用品の購入その他これに準ずる行為」とは、飲食料品、衣料品、家庭用燃料品など、職員又はその家族が日常生活の用に充てるものであって、日常しばしば購入するものを購入する行為、又は家庭生活上必要な行為であり、かつ、日常行われ、所要時間も短時間であるなど、前記日用品の購入と同程度に評価できる行為をいいます。したがって、日用品の購入のほか、独身職員が通勤途中で食事をする場合、理髪店、美容院へ行く場合などがこれに該当するとされる余地もあります。
2.本件事案の検討
(1)本件事案では、Aさんは、当日の昼食を購入するためにコンビニエンスストアに立ち寄っていますので、通勤とは関係のない目的で合理的な経路から逸れており、「逸脱」「中断」に該当しますので、本来は通勤災害にはなりません。
(2)次に、例外の「日常生活上必要な行為であって総務省令で定めるものをやむを得ない事由により行うための最小限度のものである場合」「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当しないでしょうか。
公務災害補償基金本部裁決例では、「例えば、通勤途上で尿意をもよおしたためにトイレを借用する目的でコンビニエンスストアに立ち寄ったり、喉の渇きを癒すために水分を補給する目的で立ち寄ったりした場合には、人の生理的な理由があり、必要最小限度の「ささいな行為」と言えるものであり「通勤に伴う合理的必要行為」と認められるが、本件の場合には、早朝の通勤途上で当日の昼食を購入する目的でコンビニエンスストアに立ち寄ったものであり、生理的な理由とは異なり、「通勤に伴う合理的必要行為」でもなく「ささいな行為」でもない。」と判断しているものがあります(災害補償2021年10月No.570―33頁)
しかし、Aさんの当日の昼食の購入は、上記の例で示したように、地方公務員災害補償法施行規則で示される「日用品の購入その他これに準ずる行為」に該当している点で、通勤災害の適用はあると解釈すべきでしょう。しかしながら、次の点を更に検討しなければなりませんので、まだ通勤災害の適用があるとは断定できません。
(3)通勤災害として適用されるために検討しなければならないのが、災害を受けた場所です。「逸脱」「中断」の場合、通勤災害として適用されるのは、その後通常の経路に戻り、その経路上で災害を受けた場合に限定されています(法第2条第3項は「当該逸脱又は中断の間を除き」としています。)。本件の場合、災害を受けた場所は駐車場内であり、通常の経路に戻っていないため、まだ「当該逸脱又は中断の間」の災害ということになります。そのため、本件事例の場合には、災害時と災害場所の関係で、通勤災害にはならないことになります。
(4)結論:Aさんは、通勤災害としての補償を受けることはできません。
以 上
<お正月と法律>年賀状を見て思ったこと~文書の訂正 印影の訂正~
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(相談)
あけましておめでとうございます。年賀状もパソコン等でにぎやかに作成されたものが多くなり、毛筆やペン字での手書きのものはすっかり少なくなりました。手書きのため文字を訂正した年賀状も昔は何通かもらったものです。今年の年賀状を見て思ったのですが、パソコン利用で文章の書き直しは何度でも自由にできるので、訂正のある書面は一般的な書面としても全く見かけないようになりましたね。
ところで、パソコン利用の文書でも、書き直しせずに訂正して契約書などとして官公庁に提出したり、法律的な文書で手書きが求められている書面で訂正したりする場合もあるやに聞いています。契約書の記名の訂正、押印の訂正について、正しい訂正方法があれば、教示されたい。
(回答)
「文書の訂正」ということで、最初に法律上のことで申し上げておきたいことは、年賀状はパソコンを利用して作成してもいいのですが、遺言状は「自筆(手書き)」でないといけないということです。自筆遺言状(正式には「自筆証書遺言」といいます)をパソコンで書き、無効な遺言状となった例(判例:東京高裁平成13年11月28日判決―判例時報1780号104頁)もあります。
自筆遺言状の字句の訂正方法については、民法第968条第3項に「自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。」とありますが、この規定の他に文書や印影の過誤訂正方法を定めた法律や通達等はないようです。
そもそも、押印制度は、中国・日本などの一部の慣行として維持されてきているもので、印鑑登録制度以外に法的に定められたものはないようです。
従って、一般的な文書や契約書等の押印の訂正方法について法的に正しい方法というものはないと言わざるを得ません。
但し、社会慣例として、公文書においても私文書においても、文書の過誤はそれぞれの分野での慣例に従った方法で行われていますので、慣例上求められる方式はあります。
一般的には、上記の遺言状の過誤訂正(加除)の方法に準じて、「二重線で消したその上部に正しい文字や数字を書き加える。訂正部分の近くの欄外あるいはページの上段の欄外に訂正した行、削除した字数と書き加えた字数を「○行目、○字削除、○字加筆」のようにして記載する。その後に記載した削除、加筆の字数の横または下に契約当事者双方が署名、押印で使用した印鑑と同じもので訂正印を押印する。」というのが最も厳格な方法であろうと思われます。記名部分の訂正はこの方法となるでしょう。
契約者双方が作成したものとなる契約書では、双方が同じ契約書を所持するので、抹消した人の印鑑だけで訂正してもいいのですが、後の争いが無いようにするには、契約者双方の押印をしておくべきでしょう。
「印影」の訂正方法としても、上記の文書の訂正方法に準じて、訂正したい「印影」の上に二重線を引き、余白に「印影を削除した」と記載して、契約者の正しい印影(契約書の場合には契約者双方の印影)を押印する、という方法になるでしょう。
そうなると、昨今のコロナ禍のリモートワークの影響で打ち出された「官公署届出等での押印廃止」(令和2年7月7日付総務省自治行政局長通知「地方公共団体における書面規制、押印、対面規制の見直しについて」等)が問題になります。文書に印鑑・印影が不要であれば、文書の訂正として「印影」が押印できないし、押印しても全く意味がなくなるからです。
しかし、私は、この点は特に影響しないのではないかと思います。文書の訂正方法としては、契約書の場合には、契約者同士が「訂正していること」を承知していれば良いのであって、双方が合意した訂正方法(例えば、訂正したい印影に×印を付けるとか、×印を付けた印影は削除したものであるとの付記をするだけ)であれば、問題はありませんし、敢えて印鑑や印影を必要とするものではないからです。
もっとも、文書による契約書において将来の争いが全く生じないようにしたい場合には、「文書や印影の訂正」ではなく、「新たに別個の文書を作成し直す」ということが求められます。
公文書の場合も、基本的には、文書決裁後の訂正は認めない(修正のための決裁文書を起案する)との内閣府大臣官房公文書管理課長通達(平成30年8月 10 日 府公第172号)がありますので、文書は「訂正」ではなく、「作成し直す」ことを基本にすればいいわけです。
お正月は、「年を改める」こと。新しい1年を作っていくのですから、「旧年を訂正」する方法(=コロナ禍の収束)ではなく、「新年を作成」する方法(=コロナ禍の終息)で良い年が迎えられるといいですね。
以 上
遺産となる預金を勝手に使った者が得をする?
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
<事例>
被相続人甲には、長男Aと長女Bの2人の子供がいました。Aは結婚して被相続人の隣に住んでおり、Bは嫁いだので、親である甲の元気な姿を見るために時々甲宅を訪問し話し相手になっていました。甲が死亡した際に、BはAから「甲の遺産として預金通帳にも何も残されておらず、分けるものがない。」と言われましたが、通帳取引経歴を調べてみると、甲が死亡する1年前に400万円がAの銀行口座に振り込まれており、その後半年間で、更に合計500万円が引き出されていました。1年前の400万円は子供の大学進学費用として甲がAに贈与したものであり、その後の合計500万円について、Aは「自分は引き出していないし使っていない。」と主張していましたが、裁判の結果、1年前の贈与400万円は有効と認められ、その後の使途不明金500万円についてはAが勝手に取得したものとして、その500万円分のうちBの法定相続分はAの不当利得になるとして、250万円をBに支払うこととなり、Bが勝訴しました。
しかし、本来なら使途不明金500万円の預金が残っていたことになり、遺産分割協議を行えば、Aには1年前の400万円贈与という「特別受益」があるので、Bの取り分が250万円より多くなるのですが、250万円より多くもらうことができるでしょうか?
<解 説>
1.検討課題の説明
今回は、お金の計算のクイズみたいな事例です。
甲には、死亡1年前の時点で900万円の預金があったわけですが、そのうち、Aに400万円贈与し、更にAが500万円を勝手に引き出して使い、甲の死亡時点では、何の遺産も残っていなかったという事例になります。
本来は、甲の遺産としては900万円あったので、それが死亡時まで残されていれば、Aが450万円、Bが450万円の遺産を取得することになるものです。(なお、遺留分としても各自225万円の権利を有しています。)
しかしながら、死亡前にAへの生前贈与400万円、Aの使途不明不当利得500万円があったことから、Bの相続の権利(相続分450万円、遺留分225万円)は変わらずに確保されるものなのかを検討していきたいと思います。
2.400万円の贈与による不平等の修正
相続人(子の相続)の均等相続の原則(民法第900条第4号)から、他方の子供に生前贈与がなされている場合に、死亡時に実際の遺産が残っていれば、遺産分割協議がなされ、その分割計算方法として、「特別受益」が問題になります。特別受益とは、相続人が被相続人から生前に贈与を受けていたり、相続開始後に遺贈を受けていたり、被相続人から特別に利益を受けていることを言います。特別受益を受けたものが共同相続人の中にいる場合に法定相続分通りに相続分を計算すると、不公平な相続になってしまいます。このような不公平な状態を是正するため民法第903条で特別受益がある場合の相続分の計算が規定されています。Aへの400万円贈与は「特別受益」になります。民法第903条によって、特別受益分400万円は遺産に算入され、本件の場合には、400万円が遺産分割対象となり、Bは法定相続分1/2の200万円を取得し、使途不明金返還分250万円と合わせれば本来の相続分450万円が取得できることになります。
しかしながら、この点については、相続時に「現実の遺産」が残っていなかった場合に、そもそも遺産分割手続きができるか?という大前提の問題があります。遺産分割手続きは死亡時に存在する相続人の相続「共有」状態の遺産を分割する手続きだからです。
3.使途不明金に関する遺産性
Bの立場から、「現実の遺産」としては使途不明金分の金銭が残っていたはずであるという主張が考えられますが、使途不明金の問題は、そもそも遺産としてはどういう性格のものになるのでしょうか?
この点については、現実の預金として残っていない以上は、「預金」としての遺産とは言えません。「預金」としての遺産分割手続きはできません。
使途不明金の問題は、そもそもAが甲の生存中に、甲に無断で甲の預金からお金を引き出し使ったという横領又は窃盗等の犯罪行為に類するものであり、甲はに対して、民法上の不法行為としての損害賠償請求権(民法第709条)又は不当利得返還請求権(民法第703条)という「債権」を有している状態であり、「甲のAに対する金銭債権」という「債権」の遺産ということになります。
そうであれば、「債権」としての遺産分割手続きができるのではないかということになりますが、これについては、最高裁昭和29年4月8日判決-判例タイムズ40-20等で「相続人数人ある場合において、その相続財産中に金銭その他の可分債権があるときは、その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継する。」とされ、「損害賠償請求等の金銭債権は可分債権であり、各相続人の分割単独債権となり共有関係には立つものではない。」とされており(なお、この分割債権性は、預金の共有関係を認めた最高裁平成28年12月19日大法廷決定―判例時報2333-68においても変更されていない)、その結果、使途不明金の不法行為損害賠償請求権又は不当利得返還請求権の可分債権は、相続と同時にすでに分割済みであり、遺産分割の対象にはならないということが確定しています。ただし、相続人全員の同意があれば、遺産分割手続きの対象とすることができるという裁判所の運用例があります。(最高裁昭和54年2月22日判決等)
従って、Bとしては、使途不明金に関する遺産分割は、Aの同意がない以上は遺産分割手続きをすることができませんので、Aの特別受益を考慮した平等な分配を求めることができないという状態になります。
4.遺留分減殺の方法からの検討
Bは、遺産分割すべき遺産が無いという状態なのであれば、相続すべき遺産がなく、自分の遺留分が侵害されたのではないかということから、遺留分侵害分の返還(又は損害賠償)をAに求めることを検討することになります(民法第1046条)。
遺留分とは、「相続人が一定の割合の受け取りを法律上で保証されている相続財産の取り分」のことですが、民法第1042条により、Bは生前贈与及び使途不明金等を相続財産とした900万円全体について法定相続分(1/2)の更に1/2の遺留分権を有しています。それを金額に換算すれば、900万円×1/2×1/2=225万円になります。
問題は、Bにおいて遺留分額225万円が侵害されているかどうかですが、Bは使途不明金の裁判で250万円勝訴していますので、遺留分225万円以上の相続財産を取得できていることとなり、遺留分は侵害されていないことになりますので、残念ながら、遺留分を加えて、250万円以上を請求できる根拠にはなりません。
5.結論
以上の検討の結果、本来の900万円の遺産が残っていれば、Aが450万円、Bも450万円の平等分割できたものが、Aへの生前贈与と、使途不明引き出しというAの行為により、最終的には、Aが400+250=650万円、B使途不明金返還分250万円のみという不平等な結果が生じてしまうことになります。
それで、表題を「遺産となる預金を勝手に使った者が得をする?」としたのですが、この不平等な結果の原因は、相続人全員が使途不明金を遺産分割の対象とすることに合意しないと、原則として遺産分割事件において解決をすることができないという手続き上の制約に基づくものであり、これをやむを得ないと考えるのか、遺産分割手続きの対象範囲を広げる法改正を図るべきと考えるか、あなたはどちらでしょうか?
(なお、民法改正により民法第906条の2により「遺産分割前の遺産処分」に関する「みなし遺産」規定が設けられていますが、これは「遺産相続後の遺産分割前の遺産処分」の意味に限定され、遺産相続前の遺産処分の場合には適用がないと解釈されていますので、この問題はまだ解決されていません。)
以上の経過からして、遺産となる預金を勝手に使ったAのほうが得をするということになりそうですが、Aは、「500万円を勝手に引き出している」ということになると、遺産分割上は有利になっても、刑事上の問題としては、「勝手に引き出して取得したもの」として、窃盗罪又は横領罪の刑事犯罪になり、懲役等の刑事上の処罰を受けて、その結果、損害を受けた者(甲又はB)に対する損害賠償義務を負いますので、結局は、刑事上の処罰を受ける分、非常に「損をする」という結論になります。
以 上
田舎の土地の登記手続を放置していてもよいか?
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(相談内容)
私は宮崎県内の片田舎のN町で農家の長男として生まれ育ちましたが、公務員となって家庭も持ち東京で生活しています。N町に住んでいた両親が亡くなり、私が成人したとき(昭和60年)に生前贈与を受けて私の所有名義に移転登記した家・屋敷(不動産所在地はN町、所有者である私の登記上の住所は、学生時代のF市ののまま)の不動産と、父が平成30年に死亡した際の相続財産である農地と駐車場になっている雑種地(不動産所在地N町)がありますが、兄弟姉妹が多いのですが、誰も「田舎(N町)
の土地は要らない」と言っていて、父や母からの相続登記をしていないままです。不動産登記はこのまま放置していても構わないでしょうか?
(ご回答)
1 わが国においては、すでに少子高齢社会が始まっていますが、全体的な人口減少により、田舎では誰も住んでいない「限界集落」地域が発生していくと言われています。誰も住まないのであれば田舎の土地は無用の長物となり、かつては相続財産としてプラス財産の中でも最も価値のあった不動産ですが、これからは、固定資産税や賦課金等の負担や管理費用だけが生じるマイナス財産(負債)になっていくのではないかと思われる状況が発生しています。ご相談者のように、相続財産として誰も田舎の土地は要らないと言っている状況は、そのことを示しています。
2 不動産の登記制度は、本来は価値ある不動産の所有者を明記することにより第三者に対する公示力及び対抗力(民法第177条等)によって権利者を保護することを目的とする制度であります。また、建物の新築時に行う『建物表題登記』、建物を取り壊した際に行う『滅失登記』及び土地の地目が変わった場合の『地目変更登記』などのいわゆる「表示に関する登記(表示登記)」に関しては過料制裁による登記義務が定められていますが(不動産登記法第164条)、所有権移転登記(相続登記も含む)、住所変更登記、所有権保存登記などの「権利に関する登記(権利登記)」については、不動産権利者(所有者等)の権利であり不動産権利者(所有者等)の義務ではありませんので登記しなくても過料制裁はありません。
今般、民法や不動産登記法等の改正法律が成立(令和3年4月21日)しました。改正前の不動産登記法上は、相続登記も住所変更登記も「権利登記」ですから、そのまま放置していても構わなかったのですが、今後は「権利の登記」の放置は過料制裁の問題になります。
3 この不動産登記法の改正により、「相続登記」と「登記名義人の住所変更登記」は義務化されましたので、登記手続きを放置していると、「相続登記」の場合には10万円以下の過料制裁、「住所変更登記」の場合には、5万円以下の過料制裁を受けることになりますので、放置したままではいけないことになります。
なぜ、これらの登記手続きだけを義務化したのかと言いますと、昨今、不動産登記簿を見ただけでは所有者が直ちに判明できないような土地や、所有者が判明しても住所地に所有者が所在せず所在不明で連絡できないような土地(これを「所有者不明土地」と言います。)が、全国土の22%にまで及んでいて(平成29年国交省調査)、公共事業用地買収等の手続きが円滑に進まない状況や、土地管理が全くなされず荒れ地となって近隣や地域に悪影響を与えるなどの社会問題が生じていることから、登記に関する法制度を整備する必要があったからです。
そこで、過料制裁を加えるという形で、「不動産を取得した者は、取得を知った日から3年以内に相続登記の申請をする」(改正不動産登記法第76条の2)、「氏名や住所等に変更があったときは、登記名義人は変更した日から2年以内に変更登記の申請をする」(同法第76条の5)という定めに改正されました。
相続登記義務化は令和6年4月までに施行され、住所等変更登記義務化は令和8年4月までに施行される予定ですので、まだ3年程先の話ですが、対応の準備をしておく必要があります。
ご相談への回答としては、「田舎の土地や建物の登記手続は放置しないで確実に手続きをしましょう。」ということになります。
4 相続土地国庫帰属制度の導入について
最後に、相続した土地について誰も不要だとして所有者が決まらない場合の対処方法として「相続等により取得した土地所有権の国庫への帰属に関する法律」(相続土地国庫帰属法)が制定されたことをお話しておきます。
ご相談者の場合のように、相続登記がなされず放置されている土地が増加している原因の一つとして、相続人各自が相続した土地の利用を希望しないケースが増えています。現在の法制度としては不動産の所有権放棄は原則として認められていないことから、結果として土地の所有権等の権利が残りながら権利者が不在のままで登記も管理も放置されていくわけです。
そこで、相続又は遺贈により取得した土地の所有権を持ちたくない場合には、国庫(国の所有)に帰属させるという制度を創設しました。しかし、これには次の要件が必要で、どんな土地であっても国が引き取ってあげるという制度ではありません。
①土地所有権の管理を阻害するような要素や争いのある土地や管理に過分の費用や労力を要しない土地であること
②10年分の土地管理相当額の負担金を納めること
この要件は、国はまっさらの土地で、かつ買い取ってくれるのではなく、国庫納入負担金10年分を払ってもらえば土地を国が引き取ってあげます、という制度ですから、冒頭に申し上げた、相続する田舎の無用な土地は、相続土地国庫帰属制度を利用したとしても負担だけ負うマイナス財産になるわけです。なお、相続土地国庫帰属制度は令和5年までには施行される予定です。
以 上
法定外公共物の管理に関する考え方(ある法律相談から)
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(相談)
法定外公共物である水路(その形状が消失している)を挟んだ両側の土地(不動産登記法第14条第1項の地図上の水路の西側土地がA氏所有地、水路の東側土地がB氏所有地)の各所有者A氏とB氏とが境界争いをしており、境界の基準となる水路の位置を現地で確定するように〇〇市に強く要求している。〇〇市としては、水路を示す資料がないことから、A氏、B氏それぞれに境界確定訴訟を提起してもらって解決するしかないと訴え提起を指導しているが、どちらも自分に費用がかかる手続きはしたくないと訴え提起をせずに、〇〇市が測量等をして相手方に水路を明確に示して解決しろと要求を続けている。〇〇市としてはどういう対応をすればよいか。
(説明と回答)
1 法定外公共物とは
道路や身の回りにある用排水路、湖沼、池沼などの公共物のうち、道路法、下水道法などの特別法によって管理の方法等が決められているものを法定公共物といいます。これに対して、道路法や河川法などが適用されないものを法定外公共物といいます。代表的なものに、里道(赤道)、水路(青道)があります。
2 法定外公共物の管理について
法定外公共物は、すべて慣習法に基づいて管理が行われ、今日に至っていると言われています。法定外公共物でも、国が公共の用に供するものとして「国民に使用を許可しているもの」であり、国民は「使用料支払義務」の代替として「公共物を保全管理する義務」を有するとされています。公共物を保全管理するとは、公共物内に私権を設定せずに、形状や位置の変更を加えずに利用又は使用することであり、その使用の範囲を管理する(すなわち、官民境界を明示する)義務を有しているとされています。
「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律」(平成11年7月16日法律第87号。以下「地方分権一括法」という。)により、法定外公共物を市町村へ譲与することになりましたが、そもそも、国有財産法第18条第1項・第6項の規定によれば、公共物は受益者(国民)が、道路は道路として、水路は水路としての使用目的を果たすことを条件として法制上無償使用が許可されているものであり、その反対給付として受益者に保全管理する義務が生じると解釈されてきたのです。
地方分権一括法は、法制上、公共物の使用許可者が国から市町村に変更されたにすぎず、受益者の保全管理義務は変更ないので、市町村は、受益者に保全管理義務があることを指導する立場にあり、決して管理義務を負うものではないことに特徴があります。
使用許可を受けたり使用を認められている受益者は、その使用している公共物と自己の所有地との法定境界(地租改正処分確定境界)を不動産登記法第14条第1項に基づく地図及び旧土地台帳付属地図(公図)に基づいて明示する義務を有しているとされてきたことから、決して、公共物管理権限(使用許諾権限)を有する市町村側で、「境界を示す義務」があるわけではありません。
3 本件の回答における基本的考え方(法定外公共物に関する通達等について)
以上の見解を明示する通達や法令はないようですが、従来からそのように解釈されてきていることから、本件では、A氏及びB氏に対して、水路位置の現地での明示を〇○市がしなければならい義務はないと言えます。受益者兼隣接地所有者であるA氏とB氏が境界確定訴訟等で私権行使をすれば足りる話だと考えられます。
4 境界確定訴訟について
なお、境界確定訴訟は、形式的形成訴訟という性質の裁判になるのですが、形式的形成訴訟は、当事者の提出する証拠に基づいて当事者の主張で求められた範囲内で裁判する通常の民事裁判(給付裁判、実質的形成裁判)とは異なり、当事者の主張や証拠を検討し参考にはしますが、それらに何ら拘束されることなく、最終的には、裁判官の合理的判断で境界線を定めることができますので、境界の基準となる水路(法定外公共物)に関する資料や証拠もなく何ら証言できないとしても、裁判所は判決で境界線を定めることはできます。
「水路を示す資料がないことから、A氏、B氏それぞれに境界確定訴訟を提起してもらって解決するしかないと訴え提起を指導している」というご対応でよろしいかと思います。
出典 塚田利和「法定外公共物の成立と境界確定の実務」新日本法規(2000年)
以 上
「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」って、誰のことをいうのか?③
(付録)配偶者の生計維持要件について
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
1.問題点
今までの2回は、「配偶者」の範囲について説明してきましたが、我が国の社会福祉生活の救済又は向上を図るための給付行政関連法令では、次の条文に示すように、「配偶者」等の給付を受けられる身分的地位以外に、「生計を維持した者」といういわゆる生計維持要件を求める規定があります。
そこで、最後に付録として、その生計維持要件について説明いたします。
○厚生年金保険法(以下「厚年法」という。)
(未支給の保険給付)
第37条 保険給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時
その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。」
(遺族)
第59条 遺族厚生年金を受けることができる遺族は、被保険者又は被保険者であつた者の配偶者、子、父母、孫又は祖父母(以下単に「配偶者」、「子」、「父母」、「孫」又は「祖父母」という。)であつて、被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時(失踪の宣告を受けた被保険者であつた者にあつては、行方不明となつた当時。以下この条において同じ。)その者によつて生計を維持したものとする。
4 第1項の規定の適用上、
被保険者又は被保険者であつた者によつて生計を維持していたことの認定に関し必要な事項は、政令で定める。
○同施行令
(遺族厚生年金の生計維持の認定)
第3条の10 法第59条第1項に規定する被保険者又は被保険者であつた者の死亡の当時その者によつて生計を維持していた配偶者、子、父母、孫又は祖父母は、当該被保険者又は被保険者であつた者の
死亡の当時その者と生計を同じくしていた者であつて厚生労働大臣の定める金額以上の収入を将来にわたつて有すると認められる者以外のものその他これに準ずる者として厚生労働大臣の定める者とする。
2.生計維持要件とは?
厚年法の「生計を維持していたこと」(生計維持要件)は、施行令により「被保険者であつた者の死亡の当時その者と生計を同じくしていた」という生計同一要件とされており、更に、その生計同一要件については、厚生労働省年金局長通知(平成23年3月23日「生計維持関係認定基準等取扱通知」)により次のように定められています。
(1) 次のいずれかに該当する場合
①「住民票上同一世帯に属しているとき」
②「住民票上世帯を異にしているが、住所が住民票上同一であるとき」(内縁関係を想定)
③「住所が住民票上異なっているが、現に起居を共にし、かつ、消費生活上の家計を一つにしていると認められるとき」
(2) 上記の①、②、③に該当しない場合においても、
単身赴任、就学又は病気療養等の止むを得ない事情により住所が住民票上異なっているが、
A「生活費、療養費等の経済的な援助が行われていること」
B「定期的に音信、訪問が行われていること」
➡「その事情が消滅したときは、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められること」
(3) 上記(1)(2)の基準で生計維持関係の認定を行うことが
実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ、社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、上記(1)、(2)の基準によらずに認定することができる。
3.事案の検討と判例の見解
生計維持要件・生計同一要件について具体的な例で考えてみましょう。
○具体例
夫婦間で、妻が夫の暴力(DV行為)から逃れるために、約30年の夫婦生活の後、約13年間別居し、住民票上の妻の住所も移転していた場合に、遺族厚生年金を受給できる「配偶者で、かつ、死亡の当時その者と生計を同じくしていた者」に該当するでしょうか。
このような事案について、上記の生計同一要件を認定基準に従って詳細に検討した判例があります。以下、東京地方裁判所の令和元年12月19日判決を紹介します。
この判例は、認定基準の上記2の(2)「単身赴任、就学又は病気療養等のやむを得ない事情により別居している」が、「その事情が消滅したときには、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められること」を該当性の一つとして判断しているようにも思えますが、認定基準2の(3)の「上記(1)、(2)の基準で生計維持関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、上記(1)、(2)の基準によらずに認定することができる。」場合の一つの例として判断したものだと解することができます。
○判例(東京地裁令和元年12月19日判決-判例秘書)
(事案の概要)
①原告は、昭和44年10月13日、Aと婚姻し、その後、平成15年5月15日に別居するまでの約33年間にわたり、同人と同居していた。
②昭和45年11月10日、双子である長男及び長女が出生したが、Aは、その頃から、原告に対してたびたび暴力を振るうようになった。
③Aは、平成2年頃から、原告や長女に対して頻繁に暴力を振るうようになった。(長女の右耳の鼓膜に傷害を負わせるなどしたため、長女は同年9月より家を出て一人暮らし)
④原告は、Aによる暴力をその後も繰り返し受け、平成11年1月21日には、Aにより顔面を殴打され、全治1か月を要する鼻骨骨折の傷害を負った。Aの暴力により身の危険を感じたとき、原告は、一時的な避難のために家を出て、長女や親戚の家に身を寄せるなどし、このような家出は複数回に上った。(家出の際、自己が管理していたAの銀行等口座から預貯金を引き出し、当面の生活費として使用したほか、いざというときのために現金で貯蓄していた)
⑤原告は、平成15年5月14日、Aから激しい暴力を受けた上、「明日はバットを持ってきてたたき殺すから、がん首洗って待っておけ。」と言われ、生命の危険を感じ、翌15日にAが外出している隙に長女に迎えに来てもらい、Aとの別居生活を開始した。(別居を開始する際、Aが自宅の金庫内で保管していた現金200万円(長女の婚姻時の結納金100万円、Aの母の遺産分配金100万円)を持ち出したほか、平成15年5月16日、Aの銀行口座から合計170万円を引き出したりしたが、Aは、「お金がなくなれば戻ってくれば良い」などと言うのみで、原告に対して返金を求めたことはなかった。)
⑥Aは、別居開始以降、原告の居場所を探して、原告の実家や熊本市内の親戚の家を訪ね、「これからも叩く。俺の言うことをきかないなら叩く。」などと言い、原告に対する暴力を反省する態度は全く見せなかった。
⑦原告は、Aが退職後国民健康保険にも入らず、原告も加入できていないことから、健康保険への加入の必要性を強く感じたことから、同年4月4日、自らの住民票上の住所を東京都足立区の長男の住所へ移し、さらに、長男が平成24年7月24日に千葉県鎌ケ谷市に転居した際にも、住民票上の住所を長男の転居後の住所へ移した。
⑧Aは、第三者への暴行・傷害2件で約3年間の懲役刑で服役し、大分刑務所を出所後、平成28年8月21日頃から同月31日頃までの間に自宅で死亡した。(Aの死亡は同年9月6日に発見され、死亡の届出は原告が行った)
⑨平成28年11月30日「被保険者の死亡の当時、その者によって生計を維持したもの」には該当しないという理由で、原告に対して遺族厚生年金を支給しない旨の決定がなされた。
(争点)
本件の争点は、本件不支給処分の適法性であり、具体的には、原告が厚年法第59条第1項にいう「被保険者の死亡の当時、その者によって生計を維持したもの」(生計維持要件)に該当するかであり、さらにいえば、厚年法施行令第3条の10にいう「被保険者の死亡の当時、その者と生計を同じくしていた者」(生計同一要件)に該当するかどうかですが、遺族年金不支給という結果が、最終的には「その認定が、実態と著しくかけ離れたものとなり、かつ社会通念上妥当性を欠くこととなる場合」にならないかという観点からの判断も必要になります。
裁判所の判断(判例の内容)は次のとおりです。
(判決の骨子)
1. 厚年法59条1項が、遺族厚生年金を受けることができる遺族について、被保険者等の死亡当時、その者によって生計を維持したものであることを要する(生計維持要件)としているのは、被保険者等の死亡によって生計の途を失う者は生活保障の必要性が高いため、これを遺族厚生年金の支給対象として保護しようとするものと解される。
2. 認定基準では、「単身赴任、就学又は病気療養等のやむを得ない事情により別居しているが、生活費、療養費等の経済的な援助が行われていることや、定期的に音信、訪問が行われていることといった事実が認められ、その事情が消滅したときには、起居を共にし、消費生活上の家計を一つにすると認められるとき」であれば生計同一要件を満たすものと認定し得ることとしているが、これは、当該配偶者が被保険者等と別居し、住民票上の世帯及び住所も別にしているが生計同一要件を満たすと評価できる典型的な場合について定めたものというべきであり、夫婦の在り方にも様々なものがあり得ることに照らせば、生計同一要件を満たすと評価される場合を認定基準に定める場合に限定するのは相当ではない。
この点、認定基準総論ただし書において、認定基準の定めに従うことにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しく懸け離れたものとなり社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、認定基準の定めによらずに認定すべきものとしているのは、以上に説示したところと同旨をいうものとして正当というべきである。
3. 本件において、原告は、被保険者であるAの死亡当時、同人と住民票上の世帯又は住所を同一にしておらず、起居を共にしていたとも認められないため、それでもなお生計同一要件を満たすと評価できる事情があるといえるか否か(が問題である。)
4. 長男及び長女が出生した昭和45年頃から始まったAによる暴力が、次第にその頻度及び程度を増し、一時的な避難のための家出を繰り返しても事態は改善しないどころか、生命の危険を感じる事態となったことから、原告は、平成15年5月にAとの別居を開始するに至ったものであり、別居はやむを得ない事情によるものということができる。
また、(経済面でも)別居中の原告の生計を維持するには、原告の年金収入及び長男や長女等による経済的援助だけでは足りず、同居中の夫婦財産である金銭を生活費に充てるために原告が別居時に持ち出すなどしたことについては、Aも黙認していたり、また、長期間に及ぶ別居にもかかわらず、原告又はAのいずれからも離婚に向けた働きかけがされたことはなく、原告とAとの婚姻が形骸化し、婚姻が解消されたのと同様の状態にあったとは評価することができない(状況であった)。
5. 被告は、本件が、認定基準の「生活費、療養費等の経済的な援助が行われている」場合や「定期的に音信、訪問が行われている」場合に当たらない旨を主張するが、当該認定基準は、当該配偶者が被保険者等と別居し、住民票上の世帯及び住所も別にしているが生計同一要件を満たすと評価できる典型的な場合について定めたものであり、
生計同一要件を満たすと評価される場合をこれに限定するのが相当でないことを示しており、また、原告がAと長期間にわたり別居したのはAの暴力から逃れるためであるから、Aの原告に対する積極的な経済的援助や定期的な音信、訪問等が期待し得る状況になかったことは明らかであり、
本件の事情の下において、これらの経済的援助や音信等がないからといって生計同一要件を認めないとすることは、厚年法施行令3条の10の解釈適用を誤るものといわざるを得ない。本件は、認定基準総論ただし書により、認定基準の定めに従うことにより生計維持関係の認定を行うことが実態と著しくかけ離れたものとなり社会通念上妥当性を欠くこととなる場合には、認定基準の定めによらずに認定すべきものとしている(場合に相当するものとして、)原告については、厚年法施行令3条の10に定める生計同一要件及び収入要件のいずれも満たすものと認められ、したがって、
厚年法59条1項にいう生計維持要件を満たすものと認められるから、同項に定める遺族厚生年金を受けることができる遺族に該当する。
そうすると、原告がこれに該当しないことを理由として遺族厚生年金を支給しないものとした本件不支給処分は違法であり、取り消されるべきである。
以 上
「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」って、誰のことをいうのか?②
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
前回(1)(2)(3)に続き、今回は、我が国の給付行政関連法令での給付を受けられる地位としての「配偶者」には「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者も含む」とされているが、その範囲に同性間の婚姻(同性婚)をしている場合も含まれるのかという問題を検討していきたいと思います。
(4)同性間の婚姻(同性婚)の場合、婚姻届書が提出できなくても当該地方自治体からのパートナーシップ証明書の交付を受ける場合がありますが、この場合には、諸給付を受けられる「配偶者」ということになるのでしょうか。
地方自治体からのパートナーシップ証明書の交付を受けている場合、同性婚夫婦の相互の権利が法的保護の対象になるかという点については、女性同士の同性婚をして地方自治体からパートナーシップ証明書の交付を受け、円満な共同生活を続けていたX子とA子に対して、男性BがA子と男女関係を結び、X子とA子との同性婚共同生活が破綻したという事案において、X子から男性Bに対して(不貞行為)慰謝料請求を認めた判例(東京高裁令和2年3月4日判決(原審:宇都宮地裁真岡支部令和元年9月18日判決)があり、同性婚も一定の法的保護を受けられるという傾向にあります。
しかしながら、公的給付制度における「配偶者」性による受給権まで保障されるかどうかについては、次に示すように肯定説、否定説の両説がありますが、最高裁の判例はなく、現時点では名古屋地裁判例に示されるように、「我が国において同性間の共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念が形成されていたということはできない。」ことを理由に、「同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が、犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(以下「犯給法」という。)第5第条1項第1号にいう『事実上婚姻関係と同様の事情にあった者』に該当するとまではいえない。」として、同性者の内縁関係又は同性婚の関係にある者については、公的給付を受けられる「配偶者」性は否定されています。
【1】 論説(参考)
*肯定説
内縁法理は、単に経済的弱者を保護するための制度と捉えられるべきものではなく、広く、種々の理由から法律上の要件を満たさないために婚姻の届出をすることができない者に対して及ぼし得るものとされている。すなわち、〈ア〉婚姻適齢に達していない場合、〈イ〉再婚禁止期間中である場合といった、時の経過によって婚姻障害事由が消滅する場面において、内縁法理による保護が及ぶのはもとより、〈ウ〉重婚の禁止や〈エ〉近親婚の禁止にそれぞれ抵触する場合など、公序良俗との抵触や倫理性の点に疑義がある場合においてすら、少なくとも一定の事例では内縁法理による保護が及ぶことは判例上確立した法解釈である。このように、公序良俗との抵触や倫理性の点に疑義がある場合についてすら、内縁関係としての保護が及ぼされている状況に照らせば、同性間の共同生活関係についても、公序良俗との抵触や倫理性の点に疑義がない以上、内縁関係として保護されるべきであることは当然である。
なお、内縁関係の定義において「夫婦」という用語が用いられることがあるが、これは、同性婚〔同性間の婚姻〕が想定されていなかった時代の名残であり、また、これまで同性間の共同生活関係が内縁関係に該当するか否かが争われた事例がなかったからにすぎず、同性間の共同生活関係を除外する趣旨ではないとみるべきである。
*否定説
「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」とは、いわゆる内縁関係にあった者をいい、具体的には、当事者間に社会通念上夫婦の共同生活と認められる事実関係を成立させようとする合意があり、かつ、当事者間に社会通念上夫婦の共同生活と認められるような事実関係が存在する必要がある。
① 民法においては、婚姻により配偶者の関係にあるものは「夫婦」とされており、同法第739条、第750条等によれば、「夫婦」とは、夫と妻という両性の関係を前提とする概念であると理解されるのであって、現に同法第731条においても「男」、「女」という表現が用いられている。
② 戸籍法第74条に基づく婚姻の届出の様式(戸籍法施行規則第59条、附録第12号様式)においても「夫になる人」、「妻になる人」の記載が必要とされている。
③ これらのことからすると、現行法上、婚姻は異性間で行われることが前提となっているものと解され、犯給法にこれと異なる趣旨の規定は存しない。そうすると、「事実上婚姻関係と同様の事情」として位置付けられる内縁関係も、当然に異性間の関係であることが前提となるから、同性間の関係がこれに包含されることはあり得ず、これに反する立論は、いかに国民の意識等を背景としているとしても、立法政策論の域を出ないというべきである。現在、種々の形で同性パートナーが異性の場合と同様に保護されている旨を指摘するが、原告が指摘する制度は、同性間の共同生活関係を婚姻関係と同様に扱うというものではなく、事実上の配慮として同性間の共同生活関係について一定の利益を付与するものにすぎないから、同性間の共同生活関係において婚姻の意思や婚姻としての実態が認められるという社会通念が形成されているとはいえない。
【2】判例
〇名古屋地裁令和2年6月4日判決―判例時報2466-13(控訴中)
(事案の概要)
(1)原告(男性)と本件被害者(男性)は、平成6年頃に知り合って交際するようになり、その頃から約20年間同居して生活していた。
(2)(本件殺害行為)原告と交際していた本件加害者は、平成26年▲月▲日、原告と本件被害者との関係が継続しているために原告を独り占めすることができないなどと考えて、本件被害者に対して殺意を抱き、原告及び本件被害者の居宅において、本件被害者の左胸部を持っていた洋出刃包丁で1回突き刺すなどし、本件被害者を出血性ショックにより死亡させた。
(3)原告は、平成28年12月12日、愛知県公安委員会に対し、「犯罪被害者の配偶者」(犯給法第5条第1項第1号)に当たるとして、犯給法第4条第1号所定の遺族給付金の支給の裁定を申請したが、愛知県公安委員会は、平成29年12月22日付けで、本件申請につき、遺族給付金を支給しない旨の裁定をした。
(判決骨子)
(1)同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が犯給法5条1項1号の「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得るか否かについて
ア 犯給法は、犯罪行為により死亡した者の遺族又は重傷病を負い若しくは障害が残った者(遺族等)の犯罪被害等を早期に軽減するとともに、これらの者が再び平穏な生活を営むことができるようにするため、犯罪被害等を受けた者に犯罪被害者等給付金を支給するものであり(1条、3条)、重大な経済的又は精神的な被害を受けた遺族等が発生した場合には当該遺族等を救済すべきとする社会一般の意識が生じ、他方で実際上不法行為制度の下での損害賠償等により救済を受けられない場合が多い中で、その状況を放置した場合には法秩序に対する国民の不信感が生ずることから、社会連帯共助の精神に基づき、租税を財源として遺族等に一定の給付金を支給し、遺族等の経済的又は精神的な被害を緩和するとともに、国の法制度全般に対する国民の信頼を確保することを目的とするものと解される。
イ(ア) 犯給法5条1項は、遺族に支給される遺族給付金の支給範囲を、犯罪被害者の配偶者とした上、その配偶者に「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」を含むものとしている。このような犯給法5条1項の規定内容からすると、
犯給法は、民法上は法律婚主義が採用されていることから(739条1項)、一次的には死亡した犯罪被害者と法律上の婚姻関係にあった配偶者が遺族給付金の受給権者とされるべきであるものの、前記のような犯給法の目的に鑑み、死亡した犯罪被害者との間において法律上の婚姻関係と同視し得る関係を有しながら婚姻の届出がない者をも保護しようとするものであると解される。そして、①前記のとおり、犯給法の目的が、社会連帯共助の精神に基づいて、租税を財源として遺族等に一定の給付金を支給し、国の法制度全般に対する国民の信頼を確保することにあることに鑑みると、
犯給法による保護の範囲は社会通念により決するのが合理的であること、②犯給法5条1項2号、3号に掲げられた
親子、祖父母、孫や兄弟姉妹といった親族は、社会通念上、犯罪被害者と親密なつながりを有するものとして犯罪被害者の死亡によって重大な経済的又は精神的な被害を受けることが想定される者であり、これらと並んで同項1号に掲げられている「配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)」に該当する者についても、同様の者が想定されていると考えられることからすると、同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が犯給法5条1項1号の「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当するためには、同性間の共同生活関係が婚姻関係と同視し得るものであるとの社会通念が形成されていることを要するというべきである。
(イ) この点につき、原告は、重婚的内縁や近親婚的内縁といった、法律上婚姻が認められていない類型における内縁関係にあった者についても「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得ることは解釈として確立していることを指摘し、そうである以上、特に法律上禁止されていない同性間の共同生活関係は、当然に内縁関係として保護されるべきであり、同性同士で共同生活関係にあった者は「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当し得るという趣旨を主張する。
確かに、①重婚的内縁の場合、戸籍上届出のある配偶者との婚姻が事実上の離婚状態にあるとき、②近親婚的内縁の場合、近親者間における婚姻を禁止すべき公益的要請よりも犯給法の目的を優先させるべき特段の事情が認められるときには、そのような関係にあった者は、それぞれ「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当する余地があるものと解される(①につき、最高裁昭和54年(行ツ)第109号同58年4月14日第一小法廷判決・民集37巻3号270頁参照、②につき、最高裁平成17年(行ヒ)第354号同19年3月8日第一小法廷判決・民集61巻2号518頁参照)。しかしながら、
重婚や近親婚は、婚姻に該当することを前提とした上で、これを認める弊害に鑑み、政策的に法律婚としては一律に禁じられているものである。それゆえ、個別具体的な事情の下で婚姻を禁ずる理由となっている弊害が顕在化することがないと認められる場合には、法律婚に準ずる内縁関係としての要保護性まで否定する理由はないとの判断が働き、そのような場合の内縁関係は法律婚に準ずるものとして保護されるものと解される。これに対し、同性間の共同生活関係については、政策的に婚姻が禁じられているというのではなく、そもそも民法における婚姻の定義上、婚姻に該当する余地がないのであるから(なお、この解釈自体については、原告も争うところではない。)、重婚や近親婚の場合とは自ずから局面を異にしているといわざるを得ない。
したがって、重婚的内縁や近親婚的内縁が一定の場合に内縁関係として保護されるからといって、同性間の共同生活関係が内縁関係に含まれる理由となるとは解されない。
ウ 同性間の共同生活関係に関する理解が社会一般に相当程度浸透し、差別や偏見の解消に向けた動きが進んでいるとは評価できるものの、同性間の共同生活関係を我が国における婚姻の在り方との関係でどのように位置付けるかについては、
同性パートナーシップに関する公的認証制度を設ける地方公共団体は多数に上るものの、その契機となった渋谷区条例が制定されてから本件処分当時までは約2年が経過していたにとどまり、現在においても依然として、相当数の地方公共団体においては同性パートナーシップに関する公的認証制度は設けられておらず、また、地方公共団体や民間企業における人事関連制度や民間企業における各種サービスの下で同性間の共同生活関係を異性間のものと同様に扱う取組も依然として地方公共団体や民間企業に広く浸透しているとはいい難く、いまだ社会的な議論の途上にあり、本件処分当時の我が国において同性間の共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念が形成されていたということはできない。
エ 結論
本件処分当時の我が国において、同性の犯罪被害者と共同生活関係にあった者が、犯給法5条1項1号にいう「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」に該当するとまではいえない。
(5)最後に
このように名古屋地裁判決では、「本件処分当時の我が国において同性間の共同生活関係を婚姻関係と同視し得るとの社会通念が形成されていたということはできない。」として、同性者の内縁関係又は同性婚の関係にある者については、公的給付を受けられる「配偶者」性は否定しているのですが、控訴中であり、上級審がどのように判断されるか注目されるところです。我が国の社会通念が、同性間での夫婦としての関係を認める方向へ進んでいく中においては、男女夫婦、女性間夫婦、男性間夫婦であろうが、一律に公的給付を受けられる「配偶者」性が認められる時代になるであろうと想定されます。
以 上
「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」って、誰のことをいうのか?①
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
1.問題点
我が国の社会福祉生活の救済又は向上を図るための給付行政関連法令では、次の条文に示すように、行政分野の給付を受けられる地位としての「配偶者」には「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者も含む」との法律の規定がなされており、この「配偶者」「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」の意義及び範囲をめぐって、同性婚の許容の問題を含めて、それに該当するか否かの判断が難しい例が多くあるようです。これらの問題に関して判例の見解が示されてきています。今回は、その点を3回に分けて検討してみたいと思います。
・第1回(①)「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」には、いわゆる重婚的内縁も含まれるのか。
・第2回(②)「事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」には、同性婚の内縁関係も含まれるのか。
・第3回(③)「(付録)配偶者の生計維持要件について」
まず、法律の規定例を冒頭に示しておきます。
○厚生年金保険法第3条第2項
この法律において、「配偶者」、「夫」及び「妻」には、婚姻の届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。
○同法第37条第1項(未支給の保険給付)
保険給付の受給権者が死亡した場合において、その死亡した者に支給すべき保険給付でまだその者に支給しなかつたものがあるときは、その者の配偶者、子、父母、孫、祖父母、兄弟姉妹又はこれらの者以外の三親等内の親族であつて、その者の死亡の当時その者と生計を同じくしていたものは、自己の名で、その未支給の保険給付の支給を請求することができる。
〇犯罪被害者等給付金の支給等による犯罪被害者等の支援に関する法律(犯給法)第5条(遺族の範囲及び順位)
遺族給付金の支給を受けることができる遺族は、犯罪被害者の死亡の時において、次の各号のいずれかに該当する者とする。
一 犯罪被害者の配偶者(婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあつた者を含む。)
二 犯罪被害者の収入によつて生計を維持していた犯罪被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹
三 前号に該当しない犯罪被害者の子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹
2.配偶者の定義と範囲
配偶者の意義ですが、わが国は法律婚主義を取っています(民法第739条・戸籍上の届出)ので、「法律上の婚姻関係(戸籍上の婚姻関係)にある者」を言います。
婚姻は、「夫婦生活の実態があること」と「法律上の届出(婚姻意思)があること」の二つの要件が必要とされていますので、その二つの要件が備わっていない次の場合には、有効な婚姻関係とは認められない場合があります。
その一つは、民法第742条第1号の場合です。婚姻届出があっても、当事者間に婚姻する意思が無い場合には婚姻は無効となり、婚姻している配偶者とは認められないことになります。
二つ目は、民法第742条第2号の婚姻届出自体がない場合です。夫婦生活の実態がない場合には、婚姻は無効であり婚姻している配偶者とは認められません。但し、夫婦生活の実態がある場合には、「内縁関係」として、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として保護される場合があります。
三つ目は、有効に婚姻したが、夫婦の実態が解消され離婚も合意しているが離婚届出をしていないので戸籍上は婚姻関係が残っている場合には「外縁関係」(「内縁関係」の反対の状態なので「外縁関係」と呼ばれる)として、婚姻している配偶者になるのかどうかが問題となる場合があります。
最後に、「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」に、同性婚又は同性の内縁関係も含まれるのか否かが昨今問題になっています。
3.判例による具体的判断
それでは、裁判で争われた例で、それぞれの問題点を考えていきましょう。
(1)一旦婚姻する意思で婚姻したが、当事者双方離婚する意思で夫婦生活を解消したものの離婚届出だけを提出していない場合、これを「外縁関係」という場合がありますが、この場合には、諸給付を受けられる「配偶者」ということになるでしょうか。
次の判例は、事実上離婚状態にあるいわゆる外縁関係になる場合には、「婚姻している配偶者」には該当しないとした判例です。
但し、この判例では、他方の「内縁の妻」の「配偶者」性を認める旨の判示はしていません。この点は、後記の(3)の最高裁平成17年4月21日判決―判例時報1895-50で、重婚関係の内縁の妻を「配偶者」として認めることができるかという観点で争いになっています。
〇最高裁判例昭和58年4月14日判決―判例時報1124-181
(事案の概要)
法律上の配偶者Bが、被保険者(夫A)死亡後の遺族年金支給を求めた事案である。当該の被保険者には、その当時、10年以上同居していた内縁の妻Xがいた。
(判決骨子)
「(遺族年金給付資格のある)配偶者の概念は、必ずしも民法上の配偶者概念と同一のものとみなさなければならないものではなく、…遺族給付は,組合員…が死亡した場合に家族の生活を保障する目的で給付されるものであって…戸籍上届出のある配偶者(B)であっても、その婚姻関係が実体を失って形骸化し、かつ、その状態が固定化して近い将来解消される見込みのないとき、すなわち事実上の離婚状態にある場合には、もはや右遺族給付を受けるべき配偶者には該当しないというべきである。」
(2)民法第734条第1項により婚姻が禁止された近親者同士の内縁関係あった者については、諸給付を受けられる「配偶者」又は「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」ということができるでしょうか。
当初、最高裁判例(昭和60年2月14日訟月31巻9号2204頁)では、姻族一親等にあたる事実婚配偶者(近親婚違反の夫婦)の遺族年金支給裁定が問題となった事件で、判決では、「(近親婚禁止の規定により)将来においても法律上有効な婚姻関係に入りうる余地のない内縁関係を反倫理的でないと解することはできず、公的給付を受けるにはそれにふさわしい者を給付対象とすべきものと解され、将来において法律上有効な婚姻関係に入りうるかなどの点について、重婚的内縁の場合とは事情を異にしており、反倫理的関係に立つ者に受給資格を認めることはできない」としていました。
しかし、次に示す最高裁判例では、近親婚の程度が姻族一親等夫婦事案ではなく、三親等の傍系血族間夫婦事案であったことから、反倫理性は弱いこと等を理由に、遺族厚生年金の支給を受けることができる「配偶者(内縁関係の配偶者)」として認めています。
〇最高裁平成19年3月8日判決―判例時報1967-86
(事案の概要)
厚生年金保険の被保険者であったA(Xの父の弟)との間で内縁関係にあったXが、Aの死亡後、厚生年金保険法第3条第2項にいう「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」として同法第59条第1項本文所定の被保険者であった者の配偶者に当たり、Aの死亡当時、同人によって生計を維持していたと主張して、Y(社会保険庁長官)に対し、Aの配偶者としての遺族厚生年金の支給裁定を請求したところ、Yから、上記内縁関係は、民法第734条第1項により婚姻が禁止される近親者との間の内縁関係に当たり、Xは厚生年金保険法第59条第1項本文所定の配偶者とは認められず、遺族ではないとして、遺族年金を支給しない旨の裁定を受けたことから、その取消しを求めた事件である。
第一審は、Xの請求を認めたが、控訴審は反対に Xの請求を退けた。
(判決骨子)
「厚生年金保険制度が政府の管掌する公的年金保険制度であり…婚姻法秩序に反するような内縁関係にある者まで、一般的に遺族厚生年金の支給を受けることができる配偶者にあたると解することはできない。…(本件の)三親等の傍系血族間の内縁関係も、このような反倫理性、反公益性という観点からみれば、基本的にはこれと変わりがない…。」
「(本件)内縁関係については、それが形成されるに至った経緯、周囲や地域社会の受け止め方、共同生活期間の長短、子の有無、夫婦生活の安定性等に照らし、反倫理性、反公益性が婚姻法秩序維持等の観点から問題とする必要がない程度に著しく低いと認められる場合には、…禁止すべき公益的要請よりも遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するという法の目的を優先させるべき特段の事情があるというべきで…(本件)内縁関係については、上記の特段の事情が認められ、Xは、厚生年金保険法第3条第2項にいう『事実上婚姻関係と同様の事情にある者』に該当し、同法第59条第1項本文により遺族厚生年金の支給を受けることができる配偶者に当たるものというべきである。」
(3)法律上の配偶者と事実上の配偶者とが並存していた場合において、いずれが遺族年金受給資格者たる「配偶者」又は「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」になるのでしょうか。
重複結婚は禁止されていますので、重複婚状態になる内縁関係の法律上の保護は受けないのではないかという問題があり、前述の最高裁判例昭和58年4月14日判決―判例時報1124-181では、「法律上の妻(B)」の外縁関係での「配偶者」性は否定していましたが、「事実上の配偶者(X)」の内縁関係による「配偶者」性は判断していませんでした。
しかし、次の最高裁判例では、「法律上の妻(B)」の外縁関係での「配偶者」性は否定していましたが、「事実上の配偶者(X)」の内縁関係による「配偶者」性を認めています。
〇最高裁平成17年4月21日判決―判例時報1895-50
(事案の概要)
①A夫とB(戸籍上の妻・法律上の配偶者)は、法律上、正当な婚姻手続を経た夫婦である。両者はAが勤務していた国立大学の宿舎で同居していたが、昭和53年ないし55年ころからAが宿舎を出て別居して生活するようになり、Aが死亡した平成13年1月12日まで20年以上の長期にわたり別居を続けた。
その間、両者の間に交渉はなく、Aが宿舎料を負担していたほかはBの生活費を負担することもなかった。AとBは、両者の婚姻関係を修復しようとする努力はせず、昭和57年以降は会うこともなかった。
②X(内縁の妻・事実上の配偶者)は、A夫がBとの別居後に親密な関係になり、昭和59年ころからAと同居して夫婦同然の生活をするようになり、その生計はAの収入によって維持されていた。Aが死亡した際も、Xが最期まで看護をした。
③Aの死亡後、X(事実上の配偶者)がY(保険者たる日本私立学校振興・共済事業団)に対して、遺族年金の給付請求をしたところ、YはBが存在することを理由にXへの支給をしない旨の裁定をしたため、Xが、上記裁定の取消を求めて訴えを提起した事案である。
④私立学校教職員共済法第25条は国家公務員共済組合法を準用し、同法第2条には「(遺族とは)組合員または組合員であった者の配偶者…で、組合員…の死亡の当時(失踪の宣言を…同じ。)その者によって生計を維持していたものをいう」旨の規定があり(同条第1項第3号)、さらに配偶者については「婚姻の届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者を含むものとする。」と、厚生年金保険法と同様の規定がある(同条第4項)。
(判決骨子)
「AとB(戸籍上の配偶者)は、「20年以上もの長い期間にわたって別居しており、AとBは、別居を開始する以前に離婚の話し合いを行っており、…Bがこれを拒絶し、ついには2人の間で話し合い自体ができない状態になったまま、別居に至ったということができる」、「AとBは、…夫婦としての感情の交流を窺わせるような手紙のやり取りはない」、「また、Aは…Bに対して相応の生活費を送金して…いないこと、他方において、BもAに対して長い間生活費の負担を求めることはなく…BとAとの経済的な依存関係についてもこれを認めることはできない」。
このような事実関係の下では、AB 間の「婚姻関係は実体を失って形骸化している上、そのような状態が固定化していて、その関係が近い将来に修復される見込みはなかった」というべきであり、他方、X(事実上の配偶者)は、Aとの間で事実上の婚姻関係にある者というべきであるから、B(戸籍上の配偶者)は私立学校教職員共済法第25条において準用する国家公務員共済組合法第2条第1項第3号所定の遺族として遺族共済年金の支給を受けるべき「配偶者」に当たらず、X(事実上の配偶者)がこれ(「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にある者」)に当たる。
最後の、「同性婚又は同性の内縁関係も含まれるのか」という昨今の問題については、次回詳細に検討してみたいと思います。(次回に続く)
以 上
宮崎県下の全市町村へのお願い~犯罪被害者等支援条例の制定を!!~
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
1.犯罪被害者の実情と法律
私たちは、社会の中で多くの人と共に生きており、自ら安全・安心な生活をしていても、いつ、どこで他者から理不尽な犯罪による被害を受けるかもしれません。そして、ひとたび犯罪被害に遭い身体的にも精神的にも大きなダメージを受けようとも、これからも今まで住んできた「地域(市町村)」で生きて行かねばなりません。我が国でも、多くの方々が思いもよらず、犯罪被害者やその家族・遺族となり、犯罪による直接的な被害を受けるだけでなく、それに伴い生じる精神的なショックや再度の被害への不安、周囲の無理解や心無い言動など、二次被害にも苦しみ、社会から孤立する状況も見られるところです。
このような状況に置かれた犯罪被害者やその家族・遺族(以下「犯罪被害者等」といいます。)には、犯罪者としての嫌疑を受けている刑事被疑者・被告人の憲法上の権利以前に、私たちの社会に生きる一人一人としての個人の尊厳にふさわしい処遇がなされることが憲法上の人権として保障されている(憲法第11条「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。」・憲法第13条「すべて国民は、個人として尊重される。」)ものであり、犯罪被害者あるいはその遺族として地域社会から孤立することのないよう、国や地方公共団体・地域の人々が犯罪被害者等に対して、早期に被害から回復し平穏な日常生活を取り戻すことができるよう、手を差し伸べ、寄り添い、支え合っていける社会であって欲しいという願いは、法的制度としても実現されなければなりません。
このような問題意識を受けて、国は、平成16年12月1日、犯罪被害者等基本法(以下「基本法」といいます。)を制定しました。この基本法は、犯罪被害者等の権利利益の保護を図ることを目的として、そのための施策に関する基本理念を定め、国および地方公共団体の責務を明らかにしています。犯罪被害者等は被害を受けた後にも従来の「地域」で生活していかなければならないことから、「地域住民」の生活に関する権限と責務を有する地方公共団体においては、犯罪被害者等に対する支援の責務を負う(基本法第5条)とされているのです。
2.犯罪被害者等支援活動について
犯罪被害者支援の基本は、警察や弁護士などが刑事裁判業務の中だけで行うものではなく、「地域」の中での生活再生の支援なのです。
例えば、宮崎県内で平成15年に設立(平成16年4月法人化)された「公益社団法人みやざき被害者支援センター」のボランティア支援員が地域の被害者の方への支援に入ろうとしても、被害者自身は、見知らぬ支援員には不安感や遠慮を感じるでしょう。信頼できる親戚や近所の知人に頼ります。また、どこかに相談する場合、一番身近な役場や市役所や地域の民生委員に相談するでしょう。福祉の手続きをするための相談になるでしょう。そのような犯罪被害者の「地域性」からして、地方公共団体がいち早く取り上げて寄り添ってあげるということが必要なのです。
被害者が希望する行政による具体的な施策例としては、
1 犯罪被害者給付金支給法では支給外となる事例への給付金制度による経済援助
2 地域での生活環境に関する援助としてボランティア支援員の派遣及びボランティア支援員や支援団体の育成
3 犯罪被害者支援に関する総合的な相談窓口の創設
4 地域警察や公益社団法人みやざき被害者支援センターとの連携と地域支援ネットワークの構築
等が挙げられます。
(1)宮崎県内の被害者支援活動の先駆性
これらの施策を、「犯罪被害者支援条例」として制定することは、国の施策や指示を待たなくても可能です。実は、これらの実践面では、宮崎県及び県内市町村は全国の先端を行っていました。犯罪被害者等基本法ができたのは、平成16年12月ですが、それ以前の平成15年11月に社団法人 宮崎犯罪被害者支援センターが設立され、平成16年4月から活動を始めています。そして、同時期から宮崎県は犯罪被害者支援事業も開始しており、支援事業委託に伴い、当時の社団法人 宮崎犯罪被害者支援センターの財政基盤になるものとして、宮崎県と全市町村から委託費と負担金(一人当たり3円)を拠出していただいているのです。
宮崎県内の犯罪被害者支援活動は、法律ができる前から、県下全市町村の行政が、全国に先んじて、関係機関の連携と具体的体制の下で、実践的な段階を進んできているのであり、そのことは行政を担当されている皆さんが大いに自負できることだと思います。
(2)宮崎県下での犯罪被害者等支援条例の制定の動き
ただ、宮崎県で遅れている点もあります。宮崎日日新聞(令和2年5月18日付)や読売新聞(令和2年5月25日付)にも書かれていましたが、令和2年5月時点では、県内の地方公共団体の中で「犯罪被害者支援条例」を制定している市町村が一つもなく、県も条例をもっていなかったという点です。(但し、その時点においても、宮崎県と木城町が条例制定に向けて準備をしておりました。)
全国的な被害者支援条例の制定状況を見てみますと、都道府県レベルでは、宮城県が平成15年12月に「宮城県犯罪被害者支援条例」を全国で初めて公布・制定しています。
市町村レベルでは、宮城県条例よりも先に、埼玉県嵐山町が平成11年に条例を制定したのを皮切りに、滋賀県守山市や東京都日野市などが条例を定めています。令和に入ってからは、各都道府県で「犯罪被害者支援条例」が制定され(但し、令和3年4月時点で長野、広島、鹿児島、宮崎が未制定)、大分県では、県をはじめ県内全市町村で犯罪被害者支援条例が制定されるなど、地方行政が積極的に犯罪被害者支援のできる体制作りをしてきています。
宮崎県では、令和2年12月から令和3年1月にかけて、「宮崎県犯罪被害者等支援条例(仮称)骨子案」を公表して意見募集(パブリックコメント)手続きを進めてきており、令和3年6月の宮崎県議会において「宮崎県犯罪被害者等支援条例」を審議し、公布されれば令和3年7月から施行する予定であります。
「宮崎県犯罪被害者支援条例」が施行されるとなれば、宮崎県が、充実した安全・安心な地域を目指す宮崎県政の政策のひとつが実現されるものと大いに評価するものです。さらには、この県の条例が道標となり、地域として最も犯罪被害者等に寄り添うべき市町村において「犯罪被害者等に対する支援条例」が定められることによって、県と連携した手厚く具体的な犯罪被害者支援策を実現することが可能となります。
また、条例の制定は、市町村職員はもとより地域住民である私たちにとっても、犯罪被害者等に対する支援の具体的な行動の道標にもなります。
県内の市町村では、木城町において令和3年4月に「木城町犯罪被害者等支援条例」が公布・施行されました。その他の市町村においても条例制定へ向けた動きが見られます。犯罪被害者等支援条例を定めている国内の市町村においては、専門的な職員を配置した総合支援窓口の設置、既存の住民サービスの犯罪被害者等支援への活用、犯罪被害者等を対象とした新たなサービスの整備、簡易かつ迅速な手続による見舞金や生活費の支給等の支援が設けられています。
このような犯罪被害者支援が、住んでいる地域の被害者等支援条例の有無によって受けられたり受けられなかったりすることは、望ましいことではありません。そのようなことがないように、宮崎県内の全ての市町村で犯罪被害者等を支援するための条例が制定されなければなりません。
私は、宮崎県弁護士会の犯罪被害者支援委員会委員、公益社団法人みやざき被害者支援センター役員、宮崎県町村会顧問をしている立場ではありますが、犯罪被害者支援活動を担う宮崎県民の一人として、宮崎県及び県内の全市町村で犯罪被害者等支援条例の制定がなされることを期待し願っている次第です。
以 上
20歳・19歳・18歳の同時成人式?~令和4年4月1日施行の民法の改正~
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(相談)相談日:令和3年4月1日
私には、平成14年3月15日生まれの長男(19歳)と平成16年1月30日生まれの次男(17歳)がいますが、民法改正法(成人年齢改正)が令和4年4月1日に施行され、長男は20歳のままの成人なのですが、次男も18歳で成人になりますので、令和5年1月の成人式は長男20歳、次男18歳で合同の成人祝いの宴会を親戚家族で企画したいと思います。何か注意する点があるでしょうか?
(解説)
1 民法改正と18歳成人
2018 年(平成30年) 6月13日、成人(成年)年齢の引き下げを主な内容とする「民法の一部を改正する法律(以下、改正法)」が成立しています。この法律の施行日は、2022年(令和4年)4月1日となっており、この日まで18歳になっている国民は、令和4年4月1日から成人扱いになります。法律制定から法律施行まで4年間の猶予期間をもうけたのは、消費者被害への対策や他の年齢基準の法律の改正検討をすることと、18歳成人の法制度を国民に周知させる必要があったからとされています。
2 令和4年4月1日施行日に想定される状況について
今回の改正法の施行により、成人となる時点が20歳から18歳に前倒しになります。この成人年齢の引き下げは、1876 年太政官布告以来継続してきた成人の定義である「成人=20歳以上」が約150年を経て変わるという画期的な意義があるのですが、今回の改正法は、成人年齢の引き下げに際した経過措置も規定しており、施行日時点の年齢ごとの成人年齢の区別は図表のとおりになります。
施行日:2022 年(令和4年)4月1日時点の年齢 |
成人年齢 |
① 18歳未満 |
18歳に達したときに成人する |
② 18歳以上20歳未満 |
施行日に成人したことにする |
③ 20歳以上 |
20歳に達したときに成人したことにする |
この結果、令和4年4月1日には、ご相談のように18歳、19歳、20歳の年齢の異なる子供たちが「同時に成人になる」という状況が発生することになります。そこで、各市町村においては「成人式」をどのような方法で行うのかを検討しているようです(新聞報道によれば、従来どおり20歳のみの成人式・二十歳祝賀式を行う方針の市町村が多いようです)が、それぞれの家族・親族間でも「兄弟合同成人祝い」があることも想像できます。
しかしながら、次にご説明しますが、20歳成人の長男と18歳成人の次男とは、法律上、異なった取り扱いを要求されている場合がありますので、その点を注意する必要があります。
3 その他の改正内容
(1) 民法自体の改正の内容を整理すると、改正内容は,上記の①「成人年齢の18歳への引き下げ」以外に、②「婚姻適齢の 18歳への統一」、③「養親年齢の20歳維持」の3つがあります。
「婚姻適齢の18歳統一」については、婚姻が可能になる年齢が、旧法では「男性 18 歳・女性16歳」でしたが、改正法では
「男女ともに18 歳」に定められました。また、旧法の「未成年者が結婚した場合には成人とみなす」という成年擬制は廃止されました。成人年齢と婚姻可能年齢が「18歳」として一緒になり、「未成年が結婚する」という場面がなくなるからです。
「養親年齢の20歳維持」は、旧法では、養親となるための要件を「成年に達した」と規定していましたが、これをそのまま定めておくと、18歳で養子をもらって親になることができるということになってしまうのですが、他の法律がまだ「20 歳に達した者」にしか権利や能力を与えていない場合も多くあることから、養子をもらって親になれる年齢は、従来どおり「20歳以上」としておくほうがよいとの考えで、改正法は、養親となるための要件を「成年に達した」との表現から「20歳に達した」と改正しています。
(2) 民法の成人年齢改正に関連して、他の法律の年齢基準についても改正されたものが多くあり、改正により年齢要件の基準を新たに18 歳と改正したものと、従来どおり20 歳の要件を維持したものがありますので、それぞれの法律を確認する必要があります。
選挙権が18歳から認められるとした、公職選挙法改正は皆さんご存じでしょうが、国籍法や旅券法などの戸籍に関連する法律も18歳へ改正となっています。
しかし、健康面や健全育成面で未成年者を保護しようという目的の法律は、ほぼ「20歳」のままの規定を維持しています。例えば、未成年者に射幸性の影響を与えないように、競馬法、自転車競技法、小型自動車競走法、モーターボート競走法などは、20歳未満の者に対する公営ギャンブルの禁止規定を維持していますし、未成年者喫煙禁止法、未成年者飲酒禁止法も、20歳未満の者に対する喫煙、飲酒の禁止を継続しています。(但し、未成年者飲酒禁止法は「二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律」に改名され、対象も第1条第2項と第3条第2項を除き全て「満二十年ニ至ラサル者」から「二十歳未満ノ者」に改正されるだけで、未成年者の親権者や監督義務者が科料に罰せられる法第1条2項や第3条2項は改正されていませんので、親が18歳や19歳に親が飲ませたとしても、成人者に対しては親権者としての監督義務はありませんから、科料に処せられることはないという解釈になるものと思われます。)
4 ご注意点
そういうことですので、20歳成人の長男と18歳成人の次男の合同成人お祝い会を催されるのは良いとして、お祝い会で18歳の次男が飲酒することは厳禁ですので、その点は十分に留意していただく必要があります。
以 上