弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
日本の経済は、円安状況が続いて国際競争力を失っていく傾向にありながら、内需的には、政府の最低賃金の上昇政策や企業利益を給与賃上げへ反映させる要請等があり、中小企業においては経営的に苦しい状況が続いていると言われています。
そのような中でも小売販売業者においては、多売を見込んだ商売方法を色々と工夫しているわけですが、今回は、商品に二つの価格を比較して購入動機に働きかけようとする「二重価格表示」による商売方法についてお話しましょう。
1.二重価格表示とは
二重価格表示とは、比較対象価格を値札等に併記表示して価格の安さを強調するもので、一般的には、下の図に示すように、「当店通常価格10,000円のところ期間中2割引きの8,000円」とすることが多いようです。
他にも、過去の価格と比較する表示や期間限定での将来の価格と比較する表示があります。
(値札の表示)
【過去の価格と比較表示】
(値札の表示)
今ならお得! セール価格8,000円
明日以降10,000円 |
【将来の価格と比較表示】
2.消費者庁のガイドライン
価格表示は、消費者にとって商品・サービスの選択上、最も重要な情報の一つです。従って、価格表示が適正に行われない場合には、消費者の選択を誤らせることとなります。このような観点から、消費者庁が、価格表示に関する違反行為の未然防止と適正化を図るため、どのような価格表示が一般消費者に誤認を与え、「不当景品類及び不当表示防止法」に違反するおそれがあるかについて「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」(価格表示ガイドライン)を公表しています。内容は以下のとおりです。
<基本的な基準>
二重価格表示についての基本的な考え方
(1)次のような二重価格表示は、不当表示に該当するおそれがあります。
・同一ではない商品の価格を比較対照価格に用いて表示を行う場合
・比較対照価格に用いる価格について実際と異なる表示やあいまいな表示を行う場合
(2)過去の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」を比較対照価格とする場合には、不当表示に該当するおそれはありません。
同一の商品について「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、当該価格がいつの時点でどの程度の期間販売されていた価格であるかなどその内容を正確に表示しない限り、不当表示に該当するおそれがあります。
(3)将来の販売価格を比較対照価格とする二重価格表示
表示された将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないとき(実際の販売することのない価格であったり、ごく短期間のみ当該価格で販売するにすぎないなど)には、不当表示に該当するおそれがあります。
(4)希望小売価格を比較対照価格とする二重価格表示について
製造業者等により設定され、あらかじめカタログ等により公表されているとはいえない価格を希望小売価格として称して比較対照価格に用いる場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
(5)競争事業者の販売価格を価格対照価格とする二重価格表示について
消費者が同一の商品について代替的に購入し得る事業者の最近時の販売価格とはいえない価格を比較対照価格に用いる場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
市価を比較対照価格とする二重価格表示については、競争関係にある相当数の事業者の実際の販売価格を正確に調査することなく表示する場合には、不当表示に該当するおそれがあります。
3.不当表示となった事例の紹介
二重価格表示が将来の販売価格を比較対照価格とする場合には、消費者が買い受けた後の価格と比較するものであり、販売者において、必ずしもその価格にする義務があるのでもありません。一方で、消費者においては、将来の時点で高い価格になったことの検証をすることも不可能で意味の無いものであり、過去の価格の検証とは異なり将来の実際の販売価格の検証は不可能であるため、不当な結果となることが想定されます。そのため、消費者庁が指摘するように、将来の販売価格が十分な根拠のあるものでないときなどは、不当表示と認定されることになります。
(1)平成30年3月16日 ジュピターショップチャンネル株式会社事件は、家電製品のセール企画をショッピング番組で紹介した際に「明日以降の値段」を併記して対象商品が本日のセール期間中の販売価格が安いと放送したが、セール期間終了後に販売される期間はわずか2~3日間のみであったことから、将来の販売価格として根拠が乏しいと判断され措置命令が出されました。
(2)令和7年9月12日公表の株式会社ジャパネットたかた事件は、お正月のお節料理の表示について、11月23日迄に限定して「大人気おせちが今ならお得~早期予約キャンペーン」「通常価格29,980円を値引き価格19,980円」と表示して放送したが、キャンペーン後の販売に関して実績がなく「合理的かつ確実に実施される販売計画を有していない」と推認されて措置命令が出されましたが、株式会社ジャパネットたかた側は、「今回に限り対象商品のお節料理がセール期間で売り切れとなり、将来価格での販売をすることができなかった」という説明をしており、販売計画資料やデータを提出して「将来価格で販売できなかった特段の事情がある」として審査請求(異議申立)をしていますので、どのような結論になるのかは審理の結果を待つことになっています。
4,最後に
私たち消費者としては、適正な価格を個人的に把握することは非常に難しいという中で、自分が気に入ったモノは高くても買うと言えるほどの経済的余裕があればそれで済ませることもできるのですが、他方、給与や所得が伸びないままで物価だけが上がるという経済的余裕のない昨今のような世情になってくると、国や政府に対して適正な価格あるいはより安い値段で消費商品を購入できる仕組みを求めたい気持ちになりますので、消費者の選択を意図的に誤らせようとする不当表示は許されてはならないと考えざるを得ません。
以 上
「公平性」から考える、性犯罪者は教師になれないという日本版DBS制度
~~「教職員による児童生徒性暴力の防止法」と「こども性暴力防止法」~~
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
1.そもそも「法の目的」は何でしょう?
私たちの社会は、「法治国家」つまり「法で治められている社会」と言われています。その基本になる「法」というものの、法の精神・法の目的は、社会での「正義の実現」と、そのための「公平な取扱い」を求めるところにあります。
男女共同参画の精神も同じ考え方です。男女の社会参画面での男女間に関する「正義と公平性」を求めるものですし、犯罪者と犯罪被害者の関係も同じです。犯罪被害者には、犯罪者への対応以上に、法制度として、正義と公平性を求める権利があります。私は、犯罪被害者の保護や支援は、最も大切な「正義」であり「公平性を求める」ことを実現する活動だと考えています。
法が公平性を求めるものであれば、強く有利な人に対しては制限的・制約的なものになるのですが、弱く不利な人にとっては支援的・援助的ものになるわけです。また、そのような法律が定められなければならないわけです。
日本では、教員や保育士によるわいせつ行為等での処分件数が増加しています。令和4年度の文部科学省の調査によれば、わいせつ行為等で処分された公立学校の教員は10年連続で200人を超えています。
では、子供たちを性被害から守るにはどうしたらいいのでしょうか。まず、「加害者を児童から遠ざける」方法が必要でしょう。つまり、性犯罪者は学校から排除することです。強く有利な人(教師等)に対しては、「働く権利」が制限的・制約的なものになるのですが、弱く不利な人(子供たち)にとっては、「学ぶ権利」「性被害に遭わない権利」として支援的・援助的な法律が定められなければなりません。そのひとつが、次に述べる「こども性暴力防止法」によるいわゆる「日本版DBS」((注)参照)」の導入を図る法律の制定です。
2.「日本版DBS」の導入
「こども性暴力防止法」(いわゆる「日本版DBS」の導入を盛り込んだ法律「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等のための措置に関する法律」)が、令和6年6月19日に成立したというニュースが、当時の教育界や法曹界を騒がせました。この法律に基づき、過去の性犯罪者については、その犯罪歴を関係者には公表することで、子供たちに接する学校や塾、スポーツクラブ等での就職を拒否できるという制度(教職に就く人には、性犯罪歴の確認を義務付ける制度)が運用されることになりますので、この法律も、公平性の観点から、過去の性犯罪者(強い者)に対して職業を制約し、子供たち(弱い者)の安全を保護する法律と言えます。施行は2026年(令和8年)12月25日頃になる予定でしたが、2026年(令和8年)4月1日に定められました。日本版DBS開始(施行)まで約2年という期間がかかったのは、性犯罪歴を確認するシステムの構築やガイドラインなどの検討が必要になったからです。なお、施行期日の2026年(令和8年)4月1日とすると、施行時点での「現職の学校教職員の犯歴確認は3年以内」となっており、2029年(令和11年)4月1日までに全ての学校設置者が現職者の犯歴確認をする必要があるという制度になります。
照会の手順は次のとおりです。
① 対象の事業者は、こども家庭庁に対して、子どもに関する仕事に就く人について、性犯罪歴に関する確認申請を行う。
② 本人は、①の申請を受け、こども家庭庁に対し、戸籍情報などを提出する。
③ こども家庭庁は、法務省のデータベースをもとに事業者の性犯罪歴を照会する。
④ こども家庭庁は、性犯罪歴に関する証明書を事業者に対して交付する。
(注)「こども性暴力防止法」の正式名称は、「学校設置者等及び民間教育保育等事業者による児童対象性暴力等の防止等
のための措置に関する法律」
(注)DBSとは、イギリスにおける「DBS=前歴開示・前歴者就業制限制度」(Disclosure and Barring Service=
Disclosure は開示する、Barringは廃除する)の略称
3.文科省の「特定免許状失効者管理システム(処分歴データ)」制度
(1)子ども家庭庁の制度運用前に、学校関係者においては、教育委員会等の情報記録に基づく文科省の「特定免許状失効者管理システム(処分歴データ、以下「DB」とういう。)」の運用が2023年(令和5年)4月1日から稼働しています。
「教職員による児童生徒性暴力の防止法」が令和5年4月1日から施行されたことに伴い、DBの活用は国公私立を問わず、教職員の任命権者に義務付けられおり(法第7条第1項)、文科省通知では、DBに記録・検索等をしなければ、違法になる他、雇用した教職員が再びわいせつ行為をした場合、損害賠償を負う可能性があるとしています。
そこで、学校の教育職員等を任命又は雇用しようとするときには、当該システムを活用することを義務として、 任命又は雇用を希望する者が特定免許状失効者であった場合、その情報を端緒として、採用面接等を通じ、経歴等のより詳細な確認を行うなど、法の基本理念にのっとり、十分に慎重に、適切な任命又は雇用の判断を行う必要があるとしています。
(2)しかしながら、現状としては、令和7年7月6日の読売新聞や令和7年7月9日の宮日新聞によると、子ども家庭庁の日本版DBS制度の運用開始前であるものの、文科省のDB運用が法的な義務であるにもかかわらず、「私立の幼稚園や小中高校を運営する学校法人などを対象にした文部科学省の調査で、回答した75%にあたる5,480法人が、教員採用の際に児童生徒へのわいせつ処分歴の有無を国のDBで確認しておらず、DBの利用の「登録をしていない」が3,062法人、「登録をしているが活用できていない」が2,418法人という状況である。」と報道されていました。
なお、子ども家庭庁の令和7年度に実施した教員性暴力等防止法に基づくDBの活用状況等調査によると、都道府県ごとの市区町村教育委員会のDB登録率は全国で62.8%、宮崎県38.9%、DB活用率は全国で42.2%、宮崎県16.7%であり、「日本版DBS」制度の利用は半分以下となっております。
4.最後に
以上のことから、依然として、学校関係者においても、子供たちの性被害や暴力被害を防止するための「日本版DBS」制度の理解が進んでいないことが明らかになっており、「性犯罪者は教師になれない」というフレーズで、この制度の確立運用を図っていく必要があるだろうと思っている次第です。
以 上
コロナ禍の「物乞い」行為と軽犯罪法
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(質 問)
コロナ禍の影響で無職・無住居となった人が多く出て、火急に社会的救済策が求められている状況があり、ある若者が、地下鉄駅の入り口付近で「コロナ禍で仕事を失い、無収入になりました。食べるものもありません。余裕のある方は私に生活費を恵んでください。」と段ボールに書いて座り込んでいたのを見たという人がいました。このようなことをすると犯罪になると聞きましたが、そうなのでしょうか。
また、地下鉄駅付近で物乞いをするのではなく、インターネットの書き込みで、「コロナ禍で無収入になりました。余裕のある方は私に生活費を恵んでください。」と振込口座を書き込んで物乞いをした場合は、どうでしょうか。
(回 答)
1 新型コロナウィルスによる禍(わざわい)については、2023年5月8日感染症の五類移行からちょうど3年を経過したところですが、その際に発生した社会的状況に関しては、コロナ助成金の不正受給返還請求や、コロナ支援金返還困難による事業閉鎖問題など、様々な法律問題を生じさせているようです。
ご相談の事例の参考事案があります。コロナ禍とは関係ないのですが、10年くらい前の2015年(平成27年)1月に、香川県高松市内で、ある男が通行人に「生活費がありません。お年玉をこのカップに入れて恵んでください」と訴えていたという事案があり、その男は、更に、自分を映したその様子をパソコンからネットの動画サイトで中継し、サイトの視聴者にもお金の提供を呼びかけていたという事案であり、高松南署が検察庁へ書類送検した例があるようです。香川県警は、男が生中継で実名を語っていた点に着目し、サイトを見ている人が本人を特定してメールを送ったり、送金の相談をしたりできる状態になっていたため、ネット上の「物乞い」が成立していたと判断したとされています。
そのような検察庁の現実の動きもあるので、今回は、乞食行為の法的問題点をお話しましょう。
2 刑罰法規としては、軽犯罪法第1条第4号は、「生計の途がないのに、働く能力がありながら職業に就く意思を有せず、かつ、一定の住居を持たない者で諸方をうろついたもの」を、同条第22号は、「こじきをし、又はこじきをさせた者」を、それぞれ軽犯罪として「拘留または科料」という形で処罰すると定めています。(参照:拘留は1日以上30日未満の期間刑事施設に身柄を拘束されること。科料は1,000円以上1万円未満のお金をペナルティとして支払わされること。)
「こじき」とは「同情を買って不特定多数の人に食物や金銭を求める行為」を指すと広く解する立場と、「正当な理由なく、公衆の面前で不特定多数の者に対して物乞いをすることと狭く解する立場があります。
(「物乞い」とは「自己または自己の扶養する者の生活費を乞うこと」)
前者の立場では、後に述べる「托鉢(たくはつ)」やインターネットによる資金協力要請行為等も該当する恐れがあり、妥当な解釈とは思われません。
後者の立場から検討しますと、軽犯罪法がこれを処罰することとしたのは、「健全な公衆環境の維持」を保護法益としていると考えられますので、道路、公園等、公衆の面前で行われることが「こじき」の該当要件になると考えられます。その点で、インターネットを介した物乞い行為は、それが自分のための生活必需品や生活資金等の物乞いであっても、「こじき」には該当しないと考えられます。
但し、冒頭の高松事案(実際に乞食行為を映像化してネットにも流している事案)のように、ネット上以外に、現実の道路上での乞食行為を兼ねた形式になると、軽犯罪法の「こじき」行為になる可能性が生じます。
3 ところで、「托鉢」と「大道芸」などと「乞食(物乞い)」はどこで区別するのでしょうか?
「托鉢」は、古代インド宗教の出家者の修行形態の1つで、信者の家々を巡り、生活に必要な最低限の食糧などを乞う(門付け)ことにより、街を歩きながら(連行)又は街の辻に立つ(辻立ち)により、信者に功徳を積ませる修行のことを言いますが、「乞食行(こつじきぎょう)」とも呼ばれているように、「こじき」行為のように見えます。
しかし、「托鉢」は宗教上の修行行為であり、憲法が保障する信教の自由の範囲で修行の一環として行っているものであるので、軽犯罪法上の「乞食(物乞い)」には該当しません。 また、不特定多数の人から施しを受けて生活の糧にしているとはいえ、「健全な公衆環境の維持」という観点からは、施した人が受けるメリットや思いも考慮されて判断されることになりますので、「自分も救われたい」という宗教的な思いや、「いいことをした」などの気持ちを満たせるのであれば、「お互いの利害が一致しているとも言える」ので、「健全な公衆環境の維持」に反することはないわけです。
また、「大道芸」や楽器演奏などのパフォーマンスを路上や公園で披露し、見物客から「投げ銭」を集める行為は、パフォーマンスの対価とみなせるため、適法な行為であり、「こじき」には該当しません。
「街頭募金行為」も、他者への寄付又は援助金を集める行為であり、「自己または自己の扶養する者の生活費を乞う」ために集めているものではありませんので、「こじき」には該当しません。但し、他者への寄付又は援助をするつもりもないのに募金行為をする「えせ募金行為」は、逆に、軽犯罪法より重い刑法上の詐欺罪(10年以下の懲役刑)になります。
4 NHKの連続テレビ小説「ばけばけ」にも、主人公の松野トキ(髙石あかり)の実母(雨清水タエ=北川景子)が物乞いをしているシーンがありましたが、現代の日本では見かけないようになったものの、コロナ禍はそういった時代的な行為を再発させるくらいのひどい状況だったのだと思います。
以 上
インターネット投稿での名誉棄損行行為に対する損害賠償請求と削除請求
(損害賠償請求は認められないが、削除請求は認められる場合)
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(例 題)
弁護士Aは、人材派遣・研修等を業とするX会社から研修費用90万円を返還せよとの裁判請求を受けた元従業員Bからの受任代理人として訴訟対応をしている中で、インターネット上に「X会社は、中途で退職した従業員に対して、その従業員の研修費用として、外部向けに提供しており、提供している費用の3倍もの金額を請求するなど、雇用した労働者を搾取している。このようなやり方は、戦前には売春業者や炭鉱等でのタコ部屋労働として濫用されていた。」と書き込んだ。
実際の研修費用は、外部提供した研修費用は2ヶ月研修で24万円程度、従業員研修費用は3ヶ月で90万円程度を支払う仕組みになっていたが、受講時間数が異なっており、時間単価に引き直すと、外部提供用研修単価は1時間1,155円程度、従業員研修単価は1時間1,800円程度で、1.5倍の差にすぎなかったことから、X会社は、弁護士Aに対して、虚偽の事実に基づく名誉棄損(民法第723条の不法行為)として、顧客の喪失分の損害4億円の損害賠償請求と投稿記事の削除請求の裁判を提起してきた。
弁護士Aの責任はどうなるか。
*民法第723条「他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。」
(解 説)
1.この弁護士Aのネット記事の投稿の初歩的問題点
まず、法的問題を検討する以前に、弁護士が自分の受任した事件で知った内容をなぜインターネットやSNSに書き込もうとする弁護士がいるのか、私は理解できません。刑事弁護人としてテレビ等で記者に囲まれて面会してきた被告人の内情をしゃべっている弁護士を見ますが、この点に関しても私は疑問を持っております。
弁護士法と日弁連の定める職務規程に次のような定めがしてあります。
・弁護士法第23条本文
「弁護士又は弁護士であった者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。」
・弁護士職務基本規程第23条
「弁護士は、正当な理由なく、依頼者について職務上知り得た秘密を他に漏らし、又は利用してはならない。」
この守秘義務は、依頼をした当事者に対する守秘義務ですが、事件の相手方の情報についても第三者や関係の無い人々に知らせる必要もありませんし、依頼をした当事者の意向に反する場合もあるはずですから、弁護士としては、受任した事件や裁判で知り得た個人情報は口外すべきではないでしょうし、裁判手続き以外の場面で、相手方を非難するような手法を使うことに何の意味があるのか、全く理解に苦しみます。
その意味で、私は弁護士Aのインターネットへの書き込み自体が、不適切にも程がある行為であると考えます。
2.弁護士Aのネット記事の投稿の法的問題点
(1)名誉棄損とは、公然と事実等を指摘して人の名誉を傷つける(=社会的評価を低下させる行為)です。刑事罰(刑法第230条)もありますが、民事上の不法行為責任(民法第723条)も問われることになります。民事責任についても、刑事責任に関して刑法第230条の第2号第1項の違法性阻却事由が定められている場合と同様に、名誉棄損行の事実の摘示については、以下の基準を満たす場合には、不法行為となりません。
① 事実の公共性
② 目的の公益性
③ 摘示された事実が重要な部分において真実であること(真実性)または摘示された事実の重要な部分を真実と信ずることについて相当の理由があること(誤信相当性)
(2)東京地裁令和5年12月13日判決(判例時報2609号42頁)
この事案での裁判所での判断では、「3倍もの請求をしている」「雇用した労働者を搾取している。」「このようなやり方は、戦前には売春業者や炭鉱等でのタコ部屋労働である」との事実適示については、真実性の立証はできていない(記事内容は虚偽になる)が、弁護士Aは、研修費用に関して相応の調査をしており真実と信ずることについて相当の理由があるとして、誤信相当性を認めました。
① 真実相当性がある場合の弁護士Aの責任
名誉棄損の内容となった事実が「真実」だった場合には、虚偽の事実ではないことになりますので、損害賠償責任も名誉を回復するのに適当な処分としての記事の削除責任も生じないことになります。
② 真実相当性はないが、誤信相当性がある場合の弁護士Aの責任
名誉棄損の内容となった事実が「真実」でなかった場合には、虚偽の事実が記事として残っていることになります。損害賠償請求に関しては、誤信相当性が認められたことからやむを得ない行為として責任を問うてはいけないという基準になっていますので、損害賠償責任は生じないことになります(裁判所も損害賠償請求は棄却していいます)が、インターネット上の投稿記事そのものは虚偽の記事が残ったままでは、X会社の名誉を回復しないまま放置することになりますので、名誉を回復するのに適当な処分としての記事の削除責任は生じると解釈すべきことになります。
この点、裁判所の判断は、「(3倍の金額等の)事実の適示部分は、事実とまでは認められないからその掲載行為が違法であるという評価は変わらない(真実であると信じたことにつき相当な理由があり過失を欠くという理由により不法行為責任を負わないにすぎない)から、X会社はその人格権に基づき削除を求めることができると言える(から)削除をすることを命ずる。」としています。
3.この裁判例を見て、私自身、フェイスブック等のSNSを使っていますが、そこに記載又は投稿する内容については、弁護士として登録もしていません。また、弁護士としての業務(弁護士会務は別)の内容については、一切、書き込まないように注意していますし、書き込む必要性も感じません。地方公共団体も自治体の広報活動としてフェイスブック等のSNSを積極的に活用している時代になっていますが、ここでの自己情報や不確かな情報の発信については、第三者が常に見ているという状況であることを認識して、見る側読む側の受け取り方等に留意しながら発信する必要があると思います。
以 上
公務員の欠格事由とその処遇について
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(相 談)
(1)地方公務員試験に合格し、採用前に自転車衝突事故を発生させ(被害者死亡:重過失致死罪)、少年審判で保護観察処分となった少年(未成年者)を4月1日より職員として採用してよいでしょうか。今後、どのような対応を考えておくべきでしょうか?
(2)地方公務員試験に合格した後、採用前に自動車運転致死事故(被害者死亡)を発生させ、拘禁刑6月執行猶予2年の成人者(22歳)を採用したことが、採用した1年後に判明した場合、採用はどうなるのでしょうか。勤務した事実に対する給与支払い等はどうなるのでしょうか?
(回 答)
1.地方公務員の欠格事由
地方公務員については、基本的に公務員試験(選考)を経て採用されることとなりますが、地方公務員法により、地方公務員になることが出来ない場合が定められています。これを欠格条項といいます。
地方公務員法第16条に次のような定めがあります。
「次の各号のいずれかに該当する者は、条例で定める場合を除くほか、職員となり、又は競争試験若しくは選考を受けることができない。
一 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者
二 当該地方公共団体において懲戒免職の処分を受け、当該処分の日から二年を経過しない者
三 人事委員会又は公平委員会の委員の職にあって、第六十条から第六十三条までに規定する罪を犯し、刑に処せられた者
四 日本国憲法施行の日以後において、日本国憲法又はその下に成立した政府を暴力で破壊することを主張する政党その他の団体を結成し、又はこれに加入した者」
特に、第16条第1号「拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」が問題になります。刑罰には、死刑、拘禁刑(旧懲役、旧禁錮)、罰金、拘留、科料、没収がありますが、死刑や拘禁刑を受けた場合には公務員にはなされないということになりますが、拘禁刑は、実際には「過失運転致傷罪」、「過失運転致死罪」等の場合に適用されることが多いため、重篤な交通事故を起こした場合等であれば、公務員に採用された後に科されることも多く発生しますので、その場合の公務員としての採用や採用後の身分が問題になるわけです。
例えば、公務員として在職している期間中にこれらの刑罰の実刑判決を受けた場合、その判決の日をもって、当然に失職(辞職ではない)することとなります。(地方公務員法第28条第4項(降任、免職、休職等)「職員は、第16条各号(第二号を除く。)のいずれかに該当するに至つたときは、条例に特別の定めがある場合を除くほか、その職を失う。」)
2.相談例(1)について
保護観察処分とは、罪を犯した人(成人・少年を含む)や非行少年に科される処分の一種で、保護観察所の指導の下、社会の中で更生を図る処分のことをいいます。刑務所や少年院のような施設に収容されることなく、通常の社会生活を送りながら更生を目指すことから、「社会内処遇」と位置づけられており、「刑罰」や「刑の執行」ではありません。
本件相談の未成年者の保護観察は、保護観察処分少年として、少年審判において非行を矯正する必要があると判断されたものの少年院送致までは必要なく、自宅監護の下での「保護処分」という処分を科された場合になります(更生保護法第48条1号、第66条等)。保護処分である少年院送致や保護観察は、上述したように、少年の更生を目的として家庭裁判所が課す特別な処分であり、刑事裁判所が科す懲役、罰金などの刑罰とは異なるものですから、公務員の欠格事由である「拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」には全く該当しないので、公務員として採用することに法的な問題はありません。今後の対応として検討すべき事項も特にありません。保護観察処分の原因となった犯行も自転車事故ということですから、いわゆる少年特有の悪性・非行的問題点もないと考えられますので、一般の公務員として見守ればいいと思われます。
3.相談例(2)について
地方公務員法第16条第1号の「一 拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わるまで又はその執行を受けることがなくなるまでの者」の「その執行を受けることがなくなるまでの者」というのは刑の執行猶予中の者を含む意味になります。
刑の執行猶予とは、有罪判決が下された事件で、犯罪行為に関する具体的な事情により、必ずしも現実的な刑の執行を必要としないと判断された場合に、1年以上5年以下の期間その執行を猶予し、猶予期間経過後に当該事件についての刑罰権を消滅させる制度です(刑法第25条)。執行猶予期間が満了すると刑の言い渡しの効力や資格制限等が、将来に渡って消滅しますが、執行猶予期間中は「その執行を受ける」可能性は残っており、「その執行を受けることがなくなるまでの者」に該当しますので、欠格事由になります。
公務員採用後に有罪実刑等の欠格事由が発生した場合には、刑の確定時に「失職」することになりますが(地方公務員法第28条第4項)、地方公務員の欠格事由がある人を採用した場合には、その採用行為(行政行為)は、採用時に遡って無効となります。無効と判明した時点で、採用取り消し行為をするまでもなく、そもそも公務員としての身分がなかったという取り扱いをすることになります。
その場合、公務員として勤務した1年間の事後処理をどのように行うかが問題となります。「事実上の公務員の理論」というのがあります。無資格者が公務員に選任されて外観上公務員として行った行為は、理論上は無権限者の行為ですが、行政秩序の安定と継続性を守るために、行政法理論としては、これを有効なものとして扱うという見解が多数の見解です。この考え方を基本に、本人の勤務等に対する清算は次のように考えられています。
① 給与は返還させる必要はない。
無資格の公務員給与の需給は不当利得ですが労働という対価行為を提供しているので「利得」がないと評価できます。
② 公務員共済組合に対する本人の掛金中、長期の分については、組合から本人に返還します。
短期の分については、医療給付があったものとして相殺し、返還しません。
③ 原則、退職手当は支給しません。
④ 退職に関する辞令は「採用自体が無効であるので登庁の要なし」という通知書で足りるとされています。
4.最後に、
公務員の有罪判決に関する欠格事由の定めについて、選挙権などの欠格規定では、拘禁刑以上の刑に処せられその執行を受けることがなくなるまでの者であっても執行猶予者は除外されている点と比べて、公平ではなく不合理ではないかという点が問題になった最高裁判例がありますが、「地方公務員においては、その職の信用を傷つけたり、地方公務員の職全体の不名誉となるような行為をしてはならない義務がある(地方公務員法第33条)など、その地位の特殊性や職務の公共性があることに加え、わが国における刑事訴追制度や刑事裁判制度の実情のもとにおける拘禁刑以上の刑に処せられたことに対する社会的感覚などに照らせば、地公法第28条第4項、第16条第2号の前記目的には合理性があり、地方公務員を法律上このような制度が設けられていない私企業労働者に比べて不当に差別したものとはいえない。」としています(最高裁平成1年1月17日判決)。
以 上
「別れさせ屋」業者との契約と法律問題
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
(相談)
寒い冬の時期に男女の淡い想いで温まる人たちもいれば、他方では、春を待たずに男女の別れの清算をする人たちもいます。
ということで、「夫と不倫相手を破局させるのに別れさせ屋に頼みたい」や「妻の不倫に悩んでいるが別れさせ屋に頼んだら違法なのか」、「好きな女性が出会い系サイトで知り合った悪い男と交際しているが、彼女のために別れさせたいので,、別れさせ屋に頼みたい。」という相談から垣間見える法律問題を、節分の鬼の出るこの時期に(?)、考えてみましょう。
(検討)
1.「別れさせ屋」とは,
「別れさせ屋」とは、配偶者や交際相手の不倫に悩んでいるけれど、ご自身では解決ができない人等の依頼を受けて、その不倫相手に別の異性を近づけるなどして破局させようとする業者をいいます。現在は、調査業者や一部の探偵業者などが,、業務の一環として別れさせ屋を行っているケースが多いようで、インターネット上でも、そのような宣伝や広告がされています。料金は、弁護士費用をはるかに上回る高額料金になっているのを見かけます。
2.「別れさせ」行為あるいはそのような業務自体は、そもそも許されるのでしょうか。
離婚協議や男女の別れが双方の協議や話し合いで行われていくことは認められており、そのような協議や話し合いに代わりに参加したり、代理として第三者が関わること自体は、何ら法律で規制されていませんが、双方の話し合いによる解決の代理を有料で「職業」「業」として行うことは、弁護士法違反で処罰される可能性があります。
「別れさせ屋」業者は、その点、離婚手続きの代理(法律行為及びそれを前提とした関連行為の代理)をするのではなく、別れるように気持ちを持たせるという「事実行為」(他に愛人がいる様に仕向ける。相手に虚偽の情報を提供する等)を調査又は代行するだけなので、弁護士法違反ではないという側面を持っていますので、「別れさせ屋」業者を規制する法律はありません。
3.「別れさせ屋」業者と契約することは、問題ないのでしょうか。
「別れさせ屋」業者を直接規制する法律はないのですが、「契約」する場合には、日本の法律では、「公序良俗」、つまり、社会(公)の秩序(序)と日常生活のしきたり(良俗)などに反する法律行為は無効と規定されています(民法第90条)。この点で、交際中の人を別れさせるような行為を依頼する契約は、公序良俗違反で無効になるのではないかと判断される危険性はあります。このような法律的な観点から、探偵業の上部団体である日本調査業協会の自主規制では「別れさせ屋に準じた事案については絶対にしない」という旨を決めているようです。
「別れさせ屋」業者との契約が公序良俗違反となると契約は無効となりますので、依頼者は約束した高額な料金を払わなくてもよくなり、「別れさせ屋」業者は働いた分の報酬も料金ももらえなくなるのですが、依頼者が一旦払った料金の取り戻しをしたいという場合になると、依頼者も「別れさせ屋」業者が違法な手段で別れさせることをあえて利用したという側面がある場合には、民法第708条の不法原因給付となって依頼者は料金の取り戻しができない場合も出てきますので、経済的被害が残る結果になります。
(1)「別れさせ屋」契約が公序良俗違反となるケース
① 別れさせる方法や手段が、犯罪になる場合―例えば、相手方に暴行や脅迫をした場合や住居侵入や郵便物の開封、虚偽の文書を偽造して送りつけたりした場合
② 別れさせる方法や手段が、相手方の権利(貞操を守る権利等)を侵害する性的関係を持たせる場合やその他人倫に反する行為がなされた場合
(2)「別れさせ屋」契約が公序良俗違反とならないとされたケース
大阪地裁平成30年8月29日判決―判例時報2487-83の事案を紹介しましょう。
これは、男性Y男が元交際していた女性Aが他の男性Bを付き合い始めたところ、寄りを戻そうとして、AとBを別れさせようとして「別れさせ屋」Xと「別れさせ工作委託契約(着手金80万円、報酬金40万円)」をしたところ、Xが、工作員女性Cを使って、男性Bと懇意になって別れさせる方法や男性Bと浮気をした旨を女性Aに告げることで、女性Aに男性Bと付き合いたくないと思わせる方法の始まりとして、工作員女性Cは男性Bと一緒に食事をして、女性Aと会って「私たちはBに二股をかけられていた。あんな男はどちらからも振ってやりましょう。」と告げた結果、その後1週間後に女性Aは男性Bとの交際を終了させたという事案において、男性Yは、「別れさせ屋」X及び工作員女性Cが女性Aに対して、男性Yが工作依頼したことを暴露したので、報酬は支払わない、着手金も返せという紛争になり、裁判となったものです。
裁判所は、「本件契約等の目的のために達成手段として想定されていた方法は、人倫に反する関係者らの人格、尊厳を傷つける方法や関係者の意思に反してでも接触を図るような方法であったとは認められず、また実際に実行された方法も、工作員女性Cが対象男性Bと食事を一緒にするなどというものであったというのである。これらの事情に照らせば、本件契約等においては、関係者らの自由な意思表示の範囲内で行うことが想定されていたと言えるのであって、本件契約等が公序良俗に反するとまでは言えない。」としています。
本件の関係者男性Bも女性Aも工作員女性Cも未婚者であったことから、工作方法も自由恋愛の部類の工作にすぎないこと、犯罪行為に該当する面は全く伺えないことから、「別れさせ屋」契約が有効とされたものです。
この点からすれば、男性Aと女性Bが夫婦であったり、女性Bと男性Yが夫婦であったりした場合には、単に自由恋愛の範囲を超えて夫婦の婚姻に関する権利侵害の側面が出てくる可能性がありますので、本件契約等が公序良俗に反するとされる可能性も出てきます。
4.まとめ
自分のトラブルをインターネット上の宣伝文句につられて見知らぬ人に頼むことは、法律上は特に問題がなくても、費用を追徴されることや、犯罪に巻き込まれるなどの危険を伴うものです。生活上のトラブル解決が必要な時には、資格を有する専門家や弁護士にまずは相談することが賢明です。「闇バイト」のインターネット情報のように、世の中には節分で追い出された鬼が蠢いている可能性が多くあります。インターネット情報を安易に利用することだけは避けたほうがよろしいかと思います。
以 上