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地方自治体の金銭債権の管理 「時効管理と回収手続を中心に ① 」
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
<地方自治体の金銭債権債務の消滅時効の原則規定>
1.地方自治体の管理徴収する金銭債権は、税金を始め様々なものがあります。法令に定められたものも多数ありますが、ある地方自治体では、条例を制定して特殊な貸付制度を設けたりしているところもあります。給食費未納問題・奨学金未返納問題を目の当たりしますと、自治体がいかに多種多様な金銭債権の管理徴収をしていることは理解できると思います。
問題は、そのような多種多様な金銭債権を、100%徴収・回収を目指して、消滅させずに、どのように管理し、どのような手段で徴収・回収していくかという方法論を身に付けなくてはならない時代になっているということです。(昨今、地方自治体の金銭債権の消滅時効について、その期間を知り、管理基準とする必要があるのではないかという問題意識が生じていますが、この点については、「しぶき297号の法律相談室コーナー」で殿所哲先生(弁護士)が「行政の現場における危機管理20」ということで、債権消滅時効に触れておられますので、参照していただければと思います。)
各自治体・各団体共に、債権の時効管理については、各部署でそれぞれ法令に従って管理されているようですが、担当職員は3年から5年の間隔で各部署への移動がなされるようですので、各部署各部署での管理だけで十分だろうかいう疑念もありますので、一度、基本的な考え方を知っておくのも悪いことではないと思いますし、統一的な時効管理一覧表等の作成にも努めていただくとよろしいのではないかと思います。
なお、平成20年7月に、東京弁護士会自治体債権管理問題検討チームが「自治体のための債権管理マニュアル」、平成22年11月に大阪弁護士会自治体債権管理研究会が「地方公務員のための債権管理・回収実務マニュアル」という本を出しております。それぞれ、自治体の複雑な債権関係を要領よくまとめた内容になっていますので、参考にされるとよろしいかと思います。
2.自治体の債権債務関係の消滅時効に関する基本条文
まず、地方自治体の金銭債権に関する消滅時効の条文としては、地方自治法236条が基本になります。
【地方自治法】
第236条 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがある場合を除くほか、“5年間”これを行わないときは、時効により消滅する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
2 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利の時効による消滅については、法律に特別の定めがある場合を除くほか、“時効の援用を要せず”、また、その利益を放棄することができないものとする。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
3 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利について、消滅時効の中断、停止その他の事項(前項に規定する事項を除く。)に関し、適用すべき規定がないときは、“民法の規定を準用する”。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。
4 法令の規定により普通地方公共団体がする納入の通知及び督促は、“民法第153条(前項において準用する場合を含む)の規定にかかわらず、時効の中断の効力を有する”。
これは、地方公共団体の債権債務に関する規定ですが、国の金銭債権債務については、会計法第30条、31条に同趣旨の規定があります。 国や地方自治体の金銭債権・債務の消滅時効は「5年」であるということになります。
3.消滅時効(5年)の例外
地方自治法236条1項によれば、「他の法律に定めがある場合」は、その法律の定める時効期間となりますが、「他の法律に定めがある場合」というのが非常に多いということで、自治体現場では、全体的に整理しにくいという問題点があります。
他の法律の定めを何例かピックアップすると以下のような法律があります(分かりやすくするために省略や追記をした箇所があります)。
【地方税法】
(地方税の消滅時効)
第18条 地方団体の徴収金の徴収を目的とする地方団体の権利(「地方税の徴収権」)は、法定納期限の翌日から起算して“5年間”行使しないことによって時効により消滅する。
2 前項の場合には時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができない。
(時効の中断・停止)
第18条の2 地方税の徴収権の時効は、次の各号に掲げる処分に係る部分の地方団体の徴収金につき、その処分の効力が生じたときに中断し、当該各号に定める期間を経過した時から更に進行する。
(1)納付又は納入に関する告知-その告知に指定された納付又は納入に関する期限までの期間
(2)督促-督促状又は督促のための納付若しくは納入の催告書を発した日から起算して10日を経過した日までの期間
(3)交付要求-その交付要求がされている期間
(還付金の消滅時効)
第18条の3 地方団体の徴収金の過誤納により生ずる地方団体に対する請求権及びこの法律の規定する還付金に係る地方団体に対する請求権(「還付金に係る債権」)は、その請求をすることができる日から“5年間”を経過したときは、時効により消滅する。
【国民健康保険法】
第110条 保険料その他この法律の規定による徴収金を徴収し、又はその還付を受ける権利及び保険給付を受ける権利は、“2年”を経過したときは、時効によって消滅する。
2 保険料その他この法律の規定による徴収金の徴収の告知又は督促は、民法第153条の規定にかかわらず、時効の中断の効力を生ずる。
【土地改良法】
第39条7項 (土地改良区が賦課金、延滞金、過怠金の納入未払者分の徴収依頼を市町村にしてきた場合の、その徴収金の)その時効については、国税及び地方税の例による。(5年)
【道路法】
第73条5項 負担金等(この法律、この法律に基づく命令若しくは条例又は処分により納付すべき負担金、占用料、駐車料金、割増金又は料金)並びに手数料及び延滞金を徴収する権利は、“5年間”行わない場合においては、時効により消滅する。
おおよそ例外規定としての特別法の規定は、消滅時効期間としては、2年か5年の定めをしているようです。
以上
地方自治体の金銭債権の管理 「時効管理と回収手続を中心に ② 」
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
<地方自治法第236条と民法の関係>
前回に引き続き、地方自治体の金銭債権の管理についての消滅時効の基本部分を説明していきます。
(地方自治法第236条1項) 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがある場合を除くほか、「5年間」これを行わないときは、時効により消滅する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。 |
1.地方自治法第236条1項の「他の法律に定めがある場合」というのは、債権法の基本法律である民法や商法なども含まれるのか?という問題です。
これは、実は、地方自治法236条1項の「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利」は公法上の債権に限定されるか?私法上の債権も含まれるか?という問題として解決することになります。すなわち、債権の消滅時効は、債権法の基本法である民法では、10年としており、地方自治法は、それを5年原則に変えているのはなぜかという立法趣旨から解釈されることになります。
「他の法律」に民法も含まれると単純に解釈してしまいますと、地方自治法第236条の5年の時効期間は全く意味のない規定になってしまいます。そこで、地方自治法の言う金銭債権と、民法の規定する金銭債権とは性質が異なるのではないかという考え方が出てくることになります。
地方自治法236条1項の「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利」は公法上の債権に限定されるか?私法上の債権も含まれるか?という問題について、結論を先に言えば、私法上の債権は含まれないという結論になります。 (☆但し、後でお話しますが、判例は、地方自治法236条1項の「他の法律の定め」には、民法も含まれるとしています。除外規定の表現として「他に特別の法律がある場合」「他に特別の規定がある場合」とは表現しておらずに、「他の法律の定め」としているからです。これは、民法上の5年より短い短期時効規定が含まれるという趣旨にしか使っていないと考えることもできますが、地方自治法236条1項は、民法の特別規定と考えるのではなく、民法の補充規定として考え、民法の適用の無い場合に適用する、すなわち、公法上の債権の場合の規定だと理解することになるのだろうと思います(私見)。)
そもそも、公法上の債権の消滅時効については、以下の通りの理由が考えられます。
① 時効制度の趣旨は、真実の法律関係がどうであろうと、永続した事実状態をそのまま尊重し、これを法律上保護することによって、その上に築かれた法律関係の安定を図ることを趣旨として、「権利の上に眠る者は法的には保護に値しない」こと、長期間の権利不行使によって権利の存在の証拠(立証)が困難となっていくことを理由とする。
② 元来、時効制度は、私法上の制度として発展してきたが、上記の趣旨は公法上の領域でも妥当するものであり、特に公法上の消滅時効に関しては、権利関係の早期確定の要請、財政画一主義の要請に基づき、大量且つ反復して賦課徴収されるものが多く存在するので、私法上の10年の消滅時効期間よりも短くして「5年間」とし、また、時効の援用に関しても画一処理・平等取扱の要請から「時効援用の排除」を規定したものである。
ということです。
その結果、以下のとおり、形式的に3つのジャンルに分けて、消滅時効を考えるのが妥当ではないかとされています。すなわち、
(結 論)
(ⅰ) 私法上の債権(取引契約行為に基づいて発生する債権)・・・・土地建物売買代金、物品購入代金、工事請負代金等)は、⇒ 民法・商法等の消滅時効の適用となる(民法10年間原則・・・商法は5年)
(ⅱ) 公法上の債権で税等の公法上の法律の定めがある債権は、⇒各法律の規定による。
(ⅲ) 公法上の債権で、公法上の法律の定めがない債権は、⇒地方自治法236条の「5年間」の消滅時効の適用となる。(会計法同趣旨)
2.このような区別をすると、次に、「公法上の債権」と「私法上の債権」の区別は、具体的にはどのようにするのかという問題が生じます。例えば、水道料金債権は「公法上の債権」か?、「私法上の債権」か?というような問題です。
一般的には、
☆ 「公法上の債権」とは、・・・国や地方公共団体が優越的意思主体として命令・強制することで法律関係が形成される場合の法律関係(権力関係)で発生する請求権
☆ 「私法上の債権」とは、・・・国や地方公共団体を含めて当事者が対等な意思主体として合意(契約)することで法律関係が形成される場合の法律関係で発生する請求権
という区別があるのですが、 実は、かかる定義でも、両者には、区別できそうで区別ができにくいという債権が多々あるのでやっかいなんです。例えば、国や地方公共団体が、公の施設や財産を管理し、事業を経営し公共的役務を提供し、国民・市民に給付・供給する「公共料金」と通称呼ばれている債権関係は、私法的側面がありながらも公共の福祉の見地からの公法的側面も有しているということが考えられるのです。「水道料金」債権はどうでしょうか?公共の水道施設の使用料として公法的側面を有しているようにも考えられます。「下水道料金」債権はどうでしょうか・・・。
また、更にやっかいなのは、判例は、必ずしも通説の区別基準によらずに、実質的な債権の内容によって判断をしている傾向があり、理論的に明確にしにくいというのが現状なのです。
そこで、次回に、判例事案を通じて、具体的な債権が「公法上の債権」か、「私法上の債権」かの視点で検討していきましょう。(新年へ続く)
地方自治体の金銭債権の管理 「時効管理と回収手続を中心に ③ 」
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
<公法上の債権か、私法上の債権か~判例の検討~>
昨年末の総選挙により政府与党も交代して新たな体制でスタートすることになりますが、行政は行政として公平・中立の立場で、法に基づいて執務していくことを心がけていくことが大切だと思います。今年も「何でも法律塾」をよろしくお願いします。
さて、昨年に引き続き、地方自治体の管理する金銭債権(債務)が公法上の債権か、私法上の債権かという観点から、実際の判例や行政解釈を検討してみましょう。
1.公立小学校の教職員の日直手当 ⇒ 2年(労働基準法の賃金)
今は、もう制度的にはなくなっていると思いますが、公立小学校の教職員には日直・宿直という制度がありました。この日直・宿直手当は、公法上の債権でしょうか?私法上の債権でしょうか?
仙台高裁判決昭和38.2.28、最高裁判決昭和41.12.8の事案があります。この判例では、「労働基準法も地方自治法第236条の「他の法律に定めがある場合に該当する。」とされています。すなわち、
【仙台高裁判決昭和38.2.28】 「一般職の地方公務員に支払われる宿日直手当は、いわゆる実費弁償ではなく、その額のいかんを問わず労働基準法にいう賃金であり、その請求権の時効は2年である。」 【最高裁判決昭和41.12.8】 「一般職の属する地方公務員の日直手当請求権は公法上の債権であるが、労働基準法115条により、2年間の短期時効によって消滅すると解すべきである。」 |
と判断しています。
これは、日直手当て債務(教職員の日直手当て債権)は、「公法上の債権」としながらも、「他の法律の定めがあるとして」私債権的に労働基準法115条を適用した。ということになります。
通説の基準からすれば、公法上の債権であれば、地方自治法236条1項の5年を採用すべきであるのですが、この判例は、公法上の債権としながら、労働基準法115条を適用しています。敢えて、通説と調整するためには、「労働基準法」は、地方自治法236条1項の「他の法律の定めがある」という「他の法律」に含まれるという解釈になるということになります。公務員にも労働基準法の適用があるという前提に立つことになりますが、要は、その債権の公法上、私法上の性格よりも、実質的に公務員の日直手当てと民間企業の日直賃金との間で差異があるかという観点から実質的な差異は無いということで、判断しているものと思われます。
次に、職務上管理すべき債権(地方自治体が貰い受ける側になる場合)についての判例を検討していきましょう。
従来の地方自治体の債権管理体制を根本から覆す最高裁判例が、平成15年に出ています。この判例で、自治体での債権時効管理が再度意識されるようになりました。既にご存知の方も多いと思いますが、水道料金債権に関する判例です。
2.水道料金 ⇒ 2年(民法第173条1号準用?)
水道料金は、いわゆる公共料金として、公法上の債権ではないか、正確に言えば、水道法という公法で定められた利用関係であるから水道料金債権は、公法上の債権ではないかという観点から、従来の自治体は地方自治法236条により5年の時効として管理してきていたところですが(宮崎県内の町村でも水道料金は時効を5年とした前提で条例を定めていたようです。)、その行政実例とは異なり、「水道料金債権は私法上の債権として2年の短期消滅時効にかかる」という最高裁の判断が示されました。
最高裁判決平成15.10.10ですが、これは、控訴審の判断をそのまま認容したもので、理論的には、控訴審の東京高裁の判例が詳しく論述しています。
【東京高裁平成13年5月22日判決】 「地方自治体が有する金銭債権であっても、私法上の金銭債権に当たるものについては、民法の消滅時効に関する規定が適用されるものと解されるところ(地方自治法236条1項は「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関して他の法律に定めのあるものを除く他、5年間これを行わないときは時効により消滅する。」と定めているが、同項にいう「他の法律」には民法も含まれるものと解される。そして、このように解したとしても、上記規定は、公法上の金銭債権について消滅時効期間を定めた規定として意味を有するのであって、無意味な規定となるものではない。)、水道供給事業者として控訴人(地方自治体)の地位は、一般私企業のそれと特に異なるものではないから、控訴人(自治体)と被控訴人(住民)との間の水道供給契約は私法上の契約であり、従って、被控訴人が有する水道料金債権は私法上の金銭債権であると解される。また、水道供給契約によって供給される水は、民法173条1号所定の「生産者、卸売商人及び小売商人が売却したる産物及び商品」に含まれるものというべきであるから、結局、本件水道料金債権についての消滅時効期間は、民法173条所定の2年間と解すべきこととなる。」 |
この判例で、行政実務は混乱しました。次に述べる「下水道料金」との兼ね合いで、従来の時効5年の債権管理体制を改める動きをスムーズに浸透させることができなかったという実情にあります。実は、この判例理論には、前提となる判例が既に存在していまして、同じように「公共料金」として呼ばれている「電気料」についての判例が、昭和12年6月29日大審院判例で出ています。すなわち、「電気料金債権は、民法173条1号の『生産者、卸売商人、小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権』に準ずるものとして、2年の消滅時効にかかる。」と判断していました。
水道も、電気も、事業体である市町村、電力会社が「生産して商品として売っている」ということになるようです。
それでは、水道料金と同じように管理されてきた下水道料金はどうなるのでしょう?
3.下水道料金 ⇒ 地方自治法適用(5年)施設利用としての公法上の債権
下水道とは:下水を排除するために設けられる排水管、排水渠その他の排水施設(かんがい排水施設を除く)、これに接続して下水を処理するために設けられる処理施設(し尿浄化槽を除く)又はこれらの施設を補完するために設けられるポンプ施設その他の施設の総体を言いますが、下水道料金は、その下水道施設の使用料金であり、水道料金のように水を売るというような物の販売性はありません。また、下水道利用開始の公示がなされた場合には、一定期間のうちに、個人負担での排水設備を設置することになっています。下水道法では、『遅滞なく排水設備を設置しなければならない。』と義務付けられています。下水道法によって供用開始の公示がなされたら、すみやかに排水設備の工事を行い公共下水道へ接続しなければなりません。そして一般排水としての下水道使用料金が発生します。 これは、私法上の契約というより、公法上の債権という面しかありません。
従って、地方自治法236条の適用で消滅時効は5年と考えられます。公的施設利用としての公法上の債権ということになると思います。
そうなると、ここでちょっと気をつけないといけない点があります。従来、下水道料金は、水道料金と同時に請求してきていたという地方自治体の実例が多いと思います。
しかし、水道料金は時効2年、下水道料金は時効5年ですので、債権時効管理が異なりますので、その点に留意しておく必要があります。特に、時効債権を不納欠損処理することがある場合には、下水道料金はまだ不納欠損処理できない場面も出てきますので、すこし管理がややこしくなると思います。
(次回、他の債権についても具体的にみていきましょう。)
以上
地方自治体の金銭債権の管理 「時効管理と回収手続を中心に ④ 」
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
<公法上の債権か、私法上の債権か~判例の検討 ②~>
4.保育園保育料 ⇔ 幼稚園施設料とは異なる? ⇒ 地方自治法適用(5年)or 民法173条3号準用(2年)
民主党政権の下で「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」が成立し、2010年(平成22年)4月1日から公立高校の授業料はなくなり、もともと公立小中学校は義務教育ですから授業料徴収はありませんでした。しかし、公立幼稚園・保育園の保育料は地方自治体の金銭債権として問題となります。 特に、厚生労働省が初めて行った、2007年8月に発表した認可保育所の保育料滞納調査の結果内容は、朝日新聞の報道によりますと、「06年度の滞納者数は当初の発表より843人減の8万5120人で保護者全体に対する割合は4.3%、滞納額は6億円減の83億7000万円で保育料全体に対する割合は1.7%となった。」としています。その後公立小中学校の給食費と同様に昨今の未納滞納問題の横綱格になっています。
この保育料については、教育という側面よりも幼稚園・保育園で、幼児を預かるという施設利用面が強いという特色がありますので、かつて高校の授業料について、【民法173条3号の「学芸又は技能の教育を行う者が、生徒の教育、衣食、又は寄宿舎の代価について有する債権」として、私立高校の授業料と同じように、公立高校の授業料も民法173条3号に該当して、2年の消滅時効にかかると考えるべきだろうとの考え方】と同じようなわけにはいかないのではないかと考えてもいいのかもしれません。
つまり、公的設備(学校保育園施設や保母職員等の人的設備)を利用するもので、「私的契約」ではなく、「使用許可」という行政処分の形式だから、公法上の債権であり、地方自治法236条による5年の消滅時効にかかると解釈する立場です。
また、児童福祉法56条3項で、「保育の実施に要する保育費用を支弁した市町村の長は、本人又はその扶養義務者から当該保育費用を徴収することができる」とありますので、公法上の債権であり、児童福祉法上、特別の定めがありませんので、地方自治法236条による5年の消滅時効にかかると解釈することもできます。更に、児童福祉法56条10項で「地方税の滞納処分の例により処分できる」ますので、強制徴収公債権ということもできます。
しかし、他方、幼稚園施設料は私法上の債権、保育園の保育料は公法上の債権という区別をする見解(自治体のための債権管理マニュアル・ぎょうせい・東京弁護士会編)もあります。幼稚園の場合は児童福祉法の保育園の保育事業とは異なり、地方公共団体による公的幼稚園であろうと市立幼稚園であろうと、幼児に幼稚園の目的に適った教育を施すと共に幼児に施設を利用させる義務を負う入園・在園契約をしているもので幼稚園での費用は、その施設利用の対価としての金銭請求債権と見ることになるとの見解です。この場合には、民法173条3号『学芸又は技能の教育を行うものが生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権』として2年の短期消滅時効にかかることとなります。
また、保育園の場合でも、私的契約児童(受入余力のある場合の契約による保育児童の場合)など具体的事案となって裁判になった場合に、判例が、実質的な観点から、児童福祉法に基づくものでなく私法上の契約に基づく保育と考えられる場合として、民法173条3号準用の見解(2年説)に立つ可能性もありますので、保育園でも幼稚園でも、消滅時効に関する債権管理としては、2年管理を基準に考えておいたほうがいいのではないかと思います。
5.学校給食費 ⇒ 地方自治法適用(5年)× 民法173条3号(2年)
次に、保育料と同じように、マスコミで問題とされている「モンスターペアレント」とも言われる学校給食費は、未納問題がクローズアップされてきました。給食費は、公法上の債権でしょうか、私法上の債権でしょうか?
学校給食法という法律があります。その3条で「学校給食とは、義務教育諸学校において、その児童又は生徒に対し実施される給食」とされ、日常生活での職習慣や栄養改善・健康増進の公的目的が設定された制度であります。更に、その6条で、施設及び設備に関する費用は学校設置者である地方公共団体等の負担とされていますが、第6条2項で「設備経費等以外の学校給食による経費(学校給食費)は、学校給食を受ける児童又は生徒の学校教育法22条1項に規定する保護者の負担とする。」と定めてあります。
これは、前述の下水道料金と同じように、私法上の契約というより、公法上の債権という方向へ解釈できます。
従って、地方自治法236条の適用で消滅時効は5年と考えられます。公的施設利用としての公法上の債権ということになるという考え方です。
ただ、ここでも判例の実質論の立場から、私法上の債権としての可能性があるかどうかを念のために検討しておきますが、民法上の債権としては、民法173条1号又は3号(2年)と民法174条4号(1年)が考えられます。
・ 民法173条1号『生産者、卸売商人、小売商人が売却した産物又は商品の代価に係る債権』 ・ 民法173条3号『学芸又は技能の教育を行うものが生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権』 ・ 民法174条4号『旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権』 |
まず、民法174条4号は、一時的な宿泊や食堂利用を想定した規定であり、学校給食は継続的負担に特質がありますので、準用すべき根拠もないと思います。
また、民法173条1号は、電気料や水道料という場面で準用されましたが、継続的給付の対価という面では学校給食費も同じ性質になります。そこで、学校給食費2年時効説が出てきても変ではないと思いますが、使用料に応じた対価というより平等提供による平等対価という限定があることから、当事者の自由な意思による契約内容・料金の変更要素・給食内容の選択要素も給食費の場合にはありませんので、契約による料理提供(食事提供)
とは全く異質なものであると考えますので、民法173条1項の準用も考えられないと思います。
しかし、民法173条3号『学芸又は技能の教育を行うものが生徒の教育、衣食又は寄宿の代価について有する債権』には該当するのではないかと思われます。判例の実質論を重視すれば、5年説は採らないほうがいいのではないかと思います。
私債権と解する場合には、学校給食法第6条1項2項は、給食関連費用の分担を区別しただけで、保護者に公的負担を定めたものではないと解釈することになります。
なお、注意してほしいのは、現実的には、学校給食費は、多くの場合給食を実施する学校又は給食センター等の財団・公益法人が児童生徒の保護者から、事実上、学校給食費を集金し、それで食材等を購入しているので、市町村自体が児童生徒の給食費を請求する債権を有しているわけではないと思われますが、私債権としても公法上の債権としても、訴訟主体としては、市町村長が徴収権を持っているとされる場合が発生しています。学校給食法第6条1項で、「施設及び設備に関する費用は学校設置者である地方公共団体等の負担」とされている一方で、同上2項で「設備経費等以外の学校給食による経費(学校給食費)は、学校給食を受ける児童又は生徒の学校教育法22条1項に規定する保護者の負担とする。」と定めてあることから、入学時点で学校を通じて地方公共団体が学校給食費を保護者から預かり徴収するとの契約を締結しているとの解釈がなされているからです。
以上
地方自治体の金銭債権の管理 「時効管理と回収手続を中心に ⑤ 」
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
<公法上の債権か、私法上の債権か~判例の検討 ③~>
6.体育館、文化センター(公立劇場)使用料金 ⇒ 地方自治法適用(5年「使用許可」による公法上の債権
公的施設の使用料金は、本質的には、民間会議場使用契約と同じ法律関係であると考えられます。私法上の契約では、一時賃貸借契約に準じた契約ということになりますので、民法167条で10年の消滅時効となり、更に、その中で、「旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場」に該当する場合だけ、民法174条4号により1年の消滅時効に掛かるという解釈になります。
しかし、他方、公用財産の使用については、公法上の規定があり、地方自治法でも、238条の4で「行政財産は、貸し付けたり処分したり等の私権設定はできない。」とされ、238条の5で「普通財産は、貸し付けたり処分したり等の私権設定はできる。」としているものの、必要に応じていつでも解除できるとされていたり、第244条で「住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」第244条の2で「公の施設の設置・管理・廃止について条例で定めなければならない。」として私法上の自由契約とは異なる規定をしており、一概に私法上の債権と考えることは困難であるように思います。
従って、公的設備(物的施設や用具等)を利用するもので、「私的契約」ではなく、「使用許可」という行政処分の形式だから、公法上の債権であり、地方自治法236条による5年の消滅時効にかかると解するべきであろうかと思います。
・民法167条(債権等の消滅時効) : 「債権は10年間行使しないときは消滅する。」 ・民法174条(短期消滅時効) : 「次に掲げる債権は1年間行使しないときは消滅する。 (1)~(3)は略 (4)旅館、料理店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金にかかる債権 ・地方自治法236条1項 : 「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがある場合を除くほか、「5年間」これを行わないときは、時効により消滅する。」 |
7.公営住宅家賃(⇒5年) ⇒ 地方自治法適用(5年)「使用許可」による公法上の債権又は民法169条定期金(5年)
公営住宅家賃も公的施設の使用対価という面を有しつつ、滞納問題もクローズアップされてきました。家賃滞納が多くなってきている現状にあります。
これは、私法上の債権となると、民法167条で通常の私法上の債権として10年の消滅時効又は、民法169条定期金債権で5年時効のいずれかということになります。
ここで、地方自治法236条1項の「他の法律に定める場合」の他の法律には民法も含まれるのかという頭書の命題の問題がありましたが、判例は、含まれるとしていますので、そうなると、5年時効を超えて民法上の10年時効も適用があるということになります。
これを明確にした判例もあります。
【 最高裁昭和41年11月1日判決(国の普通財産売払代金債権事件)】 「国の普通財産の売払は、国有財産法等の公法に従い行われるとしても、その法律関係は本質上私法関係というべきであり、その結果生じた代金債権も私法上の金銭債権であって、公法上の金銭債権ではないから、会計法30条(地方自治法236条と同一内容)の規定により5年の消滅時効期間の服すべきものではない。私法上の消滅時効期間(10年)に服するものである。」 |
但し、私の個人的見解としては、公法上の債権に関し、財政の早期処理、画一的処理要請との観点から、地方自治法第236条が民事上の消滅時効10年よりも5年という短い時効期間を定めたという趣旨からすれば、私法上の関係であっても、時効期間は5年として判断すべきではないかと考えています。
ましてや、公営住宅の使用家賃に関しては、民間住宅よりも低額家賃とし、住民の居住面での福祉政策という面があり、さらに、公用財産の使用については、公法上の規定があり、地方自治法でも、地方自治法238条の4で「行政財産は、貸し付けたり処分したり等の私権設定はできない。」とされ、地方自治法238条の5で「普通財産は、貸し付けたり処分したり等の私権設定はできる。」としているものの、必要に応じていつでも解除できるとされていたり、地方自治法第244条で「住民が公の施設を利用することを拒んではならない。」、地方自治法第244条の2で「公の施設の設置・管理・廃止について条例で定めなければならない。」として私法上の契約自由の原則とは異なる規定をしており、一概に私法上の債権と考えることは困難であるように思います。
従って、公営住宅の使用家賃は、公的設備(物的施設や用具等)を利用することを「私法上の契約」ではなく、「使用許可」という行政処分の形式で認めるものなので、「公法上の債権」であり、地方自治法236条による「5年」の消滅時効にかかると解するべきであろうかと思います。
仮に、公営住宅の使用家賃を、「私法上の契約による私法上の債権である」としても、公営住宅家賃は、売買契約の代金債権とは異なり、民法169条の定期給付債権とも評価されますので、時効期間はその意味でも「5年」になります。
・民法169条(定期給付債権の短期消滅時効) 「年又はこれより短い時期によって定めた金銭その他の物の給付を目的とする債権は5年間行使しないときは消滅する。」 |
以上
地方自治体の金銭債権の管理 「時効管理と回収手続を中心に ⑥ 」
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
今回は、本来は行政実務としてはあってはならないことですが、今まで説明してきたそれぞれの債権の消滅時効期間が経過した場合の処理についてお話します。
<時効利益の援用(放棄は禁止、援用は不要)>
地方自治法第236条第2項は、時効の援用に関しても画一処理・平等取扱の要請から「時効利益の放棄禁止」「時効援用の排除」を規定しています。
※地方自治法第236条第2項 「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利の時効による消滅については、法律に特別の定めがある場合を除くほか、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。」 |
まず、時効に関する原則をお話しますと、
(1)私法上の時効援用必要の原則
民法の原則:民法は、時効によって利益を受ける者が時効の利益を受けようとする単独の意思表示(時効の援用)をしなければ、それは確定的な法的効力を生じないとする制度になっています(民法145条)。
(趣旨)これは、時効の利益を受けることを潔しとしないで真実の権利関係を認めようとする者がいるときには、その者の意思を認めることが私的自治の原則に適うので、その私的自治の精神と時効制度の本質との調和を図ろうとしたものです。
これが、原則です。
(2)公法上の要請と時効援用不要(例外)
しかしながら、地方公共団体が一方の当事者となる金銭債権については、地方公共団体の債権債務関係をいつまでも不確定のままにしておくことは適当でないこと(権利確定の早期確定の要請)、公金は担当者の恣意を排除して公正に管理されるべきであること(公平処理の要請)、国民や住民の負担に関することを個々の担当者毎の時効を援用するか否かの自由を認めると、公平処理のための画一的処理が困難となること(画一的処理の要請)から、時効の援用はなく、時効期間経過という客観的事実で時効が完成する(法的効果が確定する)こととしています。
しかし、この例外法則は、地方自治法236条1項、2項が「公法上の金銭債権」に関しての規定であるということは条文上「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利」の文言解釈として説明しましたので、公法上の金銭債権のみ地方自治法第236条第2項(時効援用排除)の適用があります。
(3)他方、地方公共団体の「私法上の金銭債権」には、地方自治法第236条第2項の 例外法則(時効援用排除)の適用はありません。民法の時効原則のとおり、「時効の援用が必要である」ということになります。
(最高裁判例昭和41.11.1、同昭和44.11.6)
:「国又は公共団体が国家賠償法に基づき損害賠償責任を負う場合関係は、実質上、民法上の不法行為により損害を賠償すべき関係と性質を同じくするものであるから、国家賠償法に基づく普通地方公共団体に対する損害賠償請求権は、私法上の金銭債権であって、公法上の金銭債権ではないので、従って、その消滅時効については、地方自治法第236条2項にいう「法律に特別の定めがある場合」として、民法145条の規定が適用され、当事者が時効を援用しない限り、時効による消滅の判断をすることはできない。」としています。
以上の、理論から、
(4)時効期間経過後の債権管理(支払・受入の処理)を考えてみますと、
Ⅰ:(~時効期間完成後に債務者が地方公共団体に支払いをしてきた場合にどうするか?地方公共団体は時効期間完成後に支払いを受領することができるか?~地方公共団体が債権者である場合で受領する場合)
①公法上の金銭債権
⇒時効の援用を要しないで消滅時効が完成しているので、確定的に債権債務は消滅していることになり、支払いを受領すべきではない。
結論としては、受領しないで不納損金処理をすることになる。
②私法上の金銭債権
私法上の債権は、時効の援用をしないと債権債務は消滅していないので、理論的には、地方公共団体は、時効期間経過後でも、債権回収すべきであり、支払ってきた場合には正当な弁済として受領できる。
しかし、相手方が時効援用の知識がない場合が多いので、画一処理の要請からして、請求は控えるべきでしょうし、時効援用できる旨を告知した上で、それでも「払うものは払う。」と言われた場合に支払いを受領すべきでしょう。
この点は、特に、かつては、水道料金等は、公法上の債権としていましたので、時効完成分は控除して請求している行政実務が多いと思いますが、判例上は、水道料金は私法上の金銭債権とされましたので、時効期間経過した水道料金も相手方が時効を援用してこない限り請求できることになります。しかし、やはり、時効期間経過分は請求を控えておくというのがいいのではないかと思います。要は、時効期間を経過させないうちに、時効中断措置を取ることに熱心であるべきだと思います。
Ⅱ:(~時効期間完成後に地方公共団体が相手方に支払いをすることができるか?~地方公共団体が債務者である場合)
①公法上の金銭債権(債務)
⇒消滅時効が完全に成立しており、相手方の債権は時効完成で消滅しており、地方公共団体の時効完成後の地方公共団体の債務支払は、不当支出になります。相手方に支払うことはできなくなっています。
②私法上の金銭債権(債務)
⇒私法上の債権(債務)は、時効の援用をしないと債権債務は消滅していないので、理論的には、地方公共団体は、消滅時効の援用をしないで債務支払を実施することも、時効消滅を援用して債務支払いを免れることも可能であるということになります。
公平処理の要請・画一処理の要請から考えれば、一律的に援用する場合(例えば、不法行為債権債務)と援用を控える場合(例えば、契約に基づく代金支払債権債務)の基準を作って時効援用に関する取扱を準則化しておく必要もあろうかと思います。
また、予算処理上計上していなければ、時効援用をして支払わないことも検討することになるでしょう。
以上
地方自治体の金銭債権の管理 「時効管理と回収手続を中心に ⑦ 」
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
< 時効の中断について >
地方自治体の金銭債権の消滅時効についての「時効中断」について説明します。
地方公共団体の金銭債権を時効で消滅させないように管理することは公務員として当然の業務です。そのためには、「消滅時効を中断させて金銭債権を消滅させない工夫」が必要になります。公務員として、時効の中断に関する基礎的な理解をしておく必要があります。
もう一度、地方自治法236条(地方自治体の金銭債権)の規定を見てみましょう。
【地方自治法第236条】 1 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利は、時効に関し他の法律に定めがあるものを除くほか、五年間これを行なわないときは、時効により消滅する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。 2 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利の時効による消滅については、法律に特別の定めがある場合を除くほか、時効の援用を要せず、また、その利益を放棄することができないものとする。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。 3 金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利について、消滅時効の中断、停止その他の事項(前項に規定する事項を除く。)に関し、適用すべき法律の規定がないときは、民法 (明治二十九年法律第八十九号)の規定を準用する。普通地方公共団体に対する権利で、金銭の給付を目的とするものについても、また同様とする。 4 法令の規定により普通地方公共団体がする納入の通知及び督促は、民法第百五十三条 (前項において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、時効中断の効力を有する。 |
(1)時効の中断としての督促・請求通知
<1> 時効の中断については、民法上の原則としては、民法第147条、153条により、「請求・催促」だけでは、その後の6ケ月以内の裁判等の法的手続きを採らないと、時効の中断とならないとの規定があります。何度請求を繰り返していても、裁判の手続きをしないままその間に時効期間が経過すれば、消滅時効が成立してしまうという制度になっています。
【 民法153条 】 「催告は、6ヶ月以内に、裁判上の請求、支払督促の申立、和解の申立、民事調停法若しくは家事審判法による調停申立、破産手続き参加、再生手続参加、更生手続き参加、差押、仮差押え、又は仮処分をしなければ時効の中断の効力を生じない。」 |
<2> しかし、地方公共団体の「公法上の債権」については、「請求・催促」自体に時効中断の効力を持たせる規定となっています(地方自治法236条3項、4項)。その上、地方自治法236条4項は、条文上、公法上の債権と私法上の債権を区別していない規定ですので(「金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利」の文言が無い。)、地方公共団体の「私法上の債権」についても、「請求・催促」自体に時効中断の効力を持たせる規定となっています。
これは、まず、地方公共団体は、その歳入を収入するとき(徴収するとき)は、納入義務者に対し、納入の通知をしなければならず(地方自治法231条)、分担金、使用料、加入金、手数料及び過料その他の歳入について納期限までに納付しない者に対しては、町はその督促をしなければならないとされている(地方自治法231条の3第1項)ことから、その結果、納入通知及び督促は、公法上の債権・私法上の債権の区別なく、裁判上の手続を採らなくても、その通知及び督促自体に時効中断の効力を認めたものであり、極めて強力な権限を地方公共団体に与えているわけです。
その趣旨は、地方公共団体での歳入確保の要請、納入通知及び督促は、行政機関が法に基づいて法の定める形式で行うために公的な権利の存在の確認がなされているとの信頼に基づくものであるとされています。
<3> 債権管理の基本⇒納入通知・督促手続の体制処理 従って、地方公共団体の債権管理の基本は、各地方公共団体において、消滅時効期間を完成させ債権回収ができなくなること、及び特定の者にのみ時効消滅の利益を与えることがないようにするために、財務規則で督促の時期や手続などを明確に規定し、早期且つ確実に督促等の手続を実施できるように体制作りと担当者の意識醸成を図る必要があります。
(2)時効中断の効果
【 民法157条 】 「1 中断した時効は、その中断の事由が終了したときから、新たにその進行を始める。2 裁判上の請求によって中断した時効は、裁判が確定したときから、新たにその進行を始める。」 |
時効中断の効果は、民法157条により「新たにその時効を始める」ということですから、債権消滅対策としては、時効期間内での中断行為をするというのが、債権管理の重要な職務ということになります。中断行為の手順は以下のようにまとめることができます。
① 公法上の金銭債権も私法上の債権も、督促・請求通知を重視して、中断させることが基本である。
② 催促・請求通知後に時効が再度来る場合には、民法上の時効中断を考える。
<民法上の時効中断事由>としては、民法147条 ①請求 ②差押、仮差押え又は仮処分 ③承認が定められています。
二度目の時効中断を狙う、この「請求」は、裁判上の請求でないと確定的な時効中断にはならない(民法153条)ことに注意してください。
③最も効果的な時効中断の方法は「債務承認」である。
「債務承認」の具体的な方法としては、債務者に、債務確認書、納税確約書、誓約書などの債務承認書面を提出させることです。
この債務承認では、その書面には必ず債務金額が明示されていないと効力がないと言われていますので、その点は、留意してください。
それでは、最後に、公法上の金銭債権の催促・請求通知に関する条文だけを最後に抑えておきましょう。
【地方自治法第231条の3】 ⅰ) 分担金、使用料、加入金、手数料及び過料その他の普通地方公共団体の歳入につ いて納期限までに納付しない者があるときは、普通地方公共団体の長は、期限を指定してこれを督促しなければならない。 ⅱ) 普通地方公共団体の長は、前項の歳入について同項の規定による督促をした場合 において、条例の定めるところにより、手数料及び延滞金を徴収することができる。 ⅲ) 普通地方公共団体の長は、分担金、加入金、又は法律で定める使用料その他の普 通地方公共団体の歳入につき、第1項の規定による督促を受けた者が同項の規定により指定された期限までにその納付すべき金額を納付しないときは、当該歳入並びに当該歳入に係る前項の手数料及び延滞金について、地方税の滞納処分の例により処分することができる。 |
【地方自治法第240条】 ⅰ) この章において「債権」とは、金銭の給付を目的とする普通地方公共団体の権利をいう。 ⅱ) 普通地方公共団体の長は、債権について、政令の定めるところにより、その督促、強制執行その他その保全及び取り立てに関し必要な措置をとらなければならない。 |
【地方自治法施行令第171条】 普通地方公共団体の長は、債権(地方自治法第231条の3第1項に規定する歳入に係る債権を除く。)について、履行期限までに履行しない者があるときは、期限を指定してこれを督促しなければならない。 |
(まとめ)
歳入債権は ⇒ 地方自治法第231条の3で督促規定(手数料付加)
一般債権は ⇒ 地方自治法施行令第171条で督促規定(手数料付加はできない)
以上
TEL:0985-27-7711 FAX:0985-20-1271
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