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地方公共団体と暴力団排除条例について1
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
宮崎県では、平成23年3月22日に宮崎県暴力団排除条例が制定・公布され、平成23年8月1日から施行することになっております。
宮崎県内では、4団体、約330人(平成22年8月末現在)の暴力団が警察で把握されているようです。
そこで、全国的な暴力団規制の動きに合わせて、暴力団排除条例制定の運びとなってきたようです。
県の条例が施行されれば、市町村単位でも同様の暴力団排除条例を制定していくこととなるでしょう。その意味で、本コーナーで宮崎県暴力団排除条例を取り上げてみたいと思います。
次のように三回に分けてお話したいと思います。
1.今回 ~条例のあらまし~
2.次回 ~条例で禁止される取引行為の例~
3.次次回 ~条例で禁止される行為と暴力団等の人権~
【条例のあらまし】
1.まず、第1条(目的)では、「この条例は、宮崎県からの暴力団の排除に関し、基本理念を定め、県及び県民等の責務を明らかにするとともに、暴力団の排除に関する基本的施策、青少年の健全な育成を図るための措置、暴力団員等に対する利益の供与の禁止等を定めることにより、暴力団の排除を推進し、もって県民の安全で平穏な生活を確保し、及び社会経済活動の健全な発展に寄与することを目的とする。」と定めてあり、
第3条(基本理念)で、「暴力団の排除は、県民等が、暴力団が県民の生活及び社会経済活動に不当な影響を与える存在であることを認識した上で、暴力団を恐れないこと、暴力団に対して資金を提供しないこと及び暴力団を利用しないことを基本として推進されなければならない。
2 暴力団の排除は、県、市町村及び県民等による相互の連携及び協力の下に推進されなければならない。」 と定め
第5条(県民等の責務) で、「県民は、基本理念にのっとり、暴力団の排除のための活動に自主的に、かつ、相互の連携協力を図りながら取り組むよう努めるとともに、県が実施する暴力団の排除に関する施策に協力するよう努めるものとする。
2 事業者は、基本理念にのっとり、その行う事業(事業の準備を含む。以下同じ。)により暴力団を利することとならないようにするとともに、県が実施する暴力団の排除に関する施策に協力するものとする。
3 県民等は、暴力団の排除に資すると認められる情報を知ったときは、県に対し、当該情報を提供するよう努めるものとする。」 と、市町村や県民の暴力団排除の責務を規定しています。
次に、この条例は、 第12条(暴力団事務所の開設及び運営の禁止) で、「暴力団事務所は、次に掲げる施設(学校・公民館など)の敷地の周囲 200メートルの区域内においては、これを開設し、又は運営してはならない。
」と定め、暴力団事務所が開設できないようにしており、
第13条(利益の供与の禁止)で、「事業者は、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。
(1) 暴力団の威力を利用する目的で、金品その他の財産上の利益の供与(以下「利益の供与」という。)をすること。
(2) 暴力団の威力を利用したことに関し、利益の供与をすること。
2 事業者は、前項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団の活動又は運営に協力する目的で、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、相当の対償のない利益の供与をしてはならない。
3 事業者は、前2項に定めるもののほか、その行う事業に関し、暴力団員等又は暴力団員等が指定した者に対し、情を知って、暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資することとなる利益の供与をしてはならない。ただし、法令上の義務又は情を知らないでした契約に係る債務の履行として利益の供与をする場合その他正当な理由がある場合は、この限りでない。
」として、県民の私たちに暴力団への利益供与行為(契約行為)も禁止しており、その第13条に違反すると、説明・資料提出義務、勧告、氏名公表の不利益が科されるようになっています(条例18条、19条、20条)。
2.さて、この宮崎県暴力団排除条例は、どのような基本視点で定められているのでしょうか?
それは、平成19年6月19日の・警察庁「企業が反社会的勢力による被害を防止するための指針」(第9回犯罪対策閣僚会議決議)までさかのぼることになります。
この指針は、暴力団被害を受けないための基本原則として次の5つの原則をうたっています。
① 企業組織での対応
② 外部専門機関との連携
③ 取引を含めた一切の関係遮断
④ 有事における民事と刑事の法的対応体制
⑤ 裏取引や資金提供の責任における内部統制システム構築
この中での「取引を含めた一切の関係遮断」は、「暴力団を恐れないこと、暴力団に対して資金を提供しないこと、暴力団を利用しないこと」の暴力団三ないスローガンにうたわれているように、市民個々人、そして社会全体が、暴力団とは契約関係も含めて一切関係しないことを要請したものです。
この要請を実現するためには、逆に、暴力団と関係する取引をした一般人のほうを処罰するなり、警告する方策が功を奏するという考え方が出てきます。そもそも、警察の暴力団取り締まりが強化されてきても、暴力団が存在し続けてきているのは、みかじめ料なり賭博掛金なり社会の一人一人が何らかの利益供与を暴力団にしているからです。本来はそのような悪質な供与をしている個人や事業者をも処罰することで、暴力団へ利益が渡らないようにする必要があるわけです。例えば、福岡県暴力団排除条例は、その種の処罰規定を設けていますが、社会を裏切って暴力団と取引をしたりした者は暴力団と同じように処罰する(社会全体が暴力団と対峙しなければならない)との視点なのです。
宮崎県暴力団排除条例では、一般人を処罰する規定までは盛り込んでいませんが、説明・資料提出義務、勧告、氏名公表の不利益が科されるようになっています(条例18条、19条、20条)ので、同じ視点に立つ条例です。暴力団取り締りの構図を、「暴力団vs警察」から「暴力団vs社会」へと発展させている条例であると言えます。
☆次回(~条例で禁止される取引行為の例~)へと続きます。
地方公共団体と暴力団排除条例について2
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
前回に引き続き、今回は、宮崎県暴力団排除条例第15条(利益の供与の禁止)に触れる取引がどのようなものがあるかを具体的に考えてみましょう。
【条例で禁止される取引行為の例】
① 建築会社が、マンション建設に反対する地域住民を黙らせるために暴力団の指定する建設業者を下請けに入れて、地域住民との交渉・対応をさせた。・・・1項1号?
⇒ 条例15条1項1号は「暴力団の威力を利用する目的で、金品その他の財産上の利益の供与すること」を禁止していますが、「下請に入れる」ことは「その他の財産上の利益の供与すること」になりますので、禁止される行為です。
② 交通事故の示談交渉を暴力団員に代行させ、解決したときに謝礼金を暴力団員に払った・・・1項2号?
⇒ 条例15条1項2号は「暴力団の威力を利用したことに関し、利益の供与をすること」を禁止しています。「示談解決した時の謝礼金」は、「利益の供与」(金品その他の財産上の利益の供与)」になりますので、禁止される行為になります。
③ 風俗営業者が暴力団に「みかじめ料」を支払うこと・・・2項?
⇒ 条例15条2項は「暴力団の活動又は運営に協力する目的で、暴力団員等に相当の対償のない利益の供与をしてはならない」としています。「みかじめ料」とは、「用心棒代金、店でトラブルが起きた時に解決してくれる」という目的で払う金銭のことですから、暴力団の「シマを守る」という活動に協力をしていることになり、「みかじめ料」を払っても暴力団は何もしないわけですから「相当の対償のない利益」になりますので、禁止される行為になります。
④ 暴力団の襲名披露と知ってホテルが宴会場を通常価格で利用させた・・・・3項?(安価ですると2項?)
⇒ 条例15条2項は「相当の対償のない利益」を禁止していますが、同15条3項は「相当の対償のある利益」(=単なる「利益の供与」)」も禁止しています。ホテルが宴会場を暴力団に通常価格で貸すことは、通常の取引であり、契約の自由の原則からして禁止される行為ではないはずです。しかし、暴力団の襲名披露は「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資すること」になりますので、その範囲では普通の取引形態であっても禁止されます。しかし、暴力団とは知らないで契約した場合には、禁止される行為にはなりません。この場合に、ホテル利用代金を格安にしたりすると「相当の対償のない利益」の供与になりますので、3項ではなく、2項違反になります。このときは、暴力団と知って格安で契約するわけですから、契約の義務の履行の場合でも禁止される行為になります。
⑤ 暴力団の代紋バッジや暴力団員の名刺を作成して販売した・・・3項?(安価ですると2項?)
⇒ ④の場合と同じ解釈になりますが、この場合には、注文を受けた品物自体から暴力団の使用する品物であることが一見して分かるので、「暴力団とは知らないで契約した場合」という例はあり得ません。通常価格で契約した場合でも3項違反で禁止される行為になります。「暴力団の代紋バッヂや名刺」を作る契約は、作る名刺に「暴力団○○組」とか「暴力団の肩書(「若頭」等)」が書いてあるものを注文してきているので、当然相手が暴力団だと分かるからです。
⑥ 暴力団事務所と知って、建物の内装を格安で工事した・・・2項?(適正価格であれば3項?)
⇒ ⑤と同じで禁止される行為になります。
⑦ 暴力団事務所と知って、水道供給契約をして水道水を提供した・・・☆3項×?(法令上の義務?)
⇒ 水道供給契約は、水道事業者として各地方公共団体が契約当事者になっていますので、条例15条3項の「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資すること」の中の「助長行為」になるとすれば、暴力団対策の有効な策になるだろうと思われますが、これを現実に実践するとなると現場は大変な混乱が起こるかもしれません。しかし、仮に水道水供給契約が「助長行為」に該当するとしても、水道法15条(給付義務)1項で「水道事業者は、事業計画に定める給水区域内の需要者から給水契約の申込みを受けたときは、正当の理由がなければ、これを拒んではならない。」との定めがありますので、行政解釈としては、条例15条3項但書の「法令上の義務として利益の供与をする場合」となり、禁止行為にはならないと解釈されるのではないかと思います。個人的には、禁止行為になるという解釈の余地もあろうかと思います。
⑧ 暴力団員の刑事事件の弁護を弁護士が適正報酬を約束して刑が軽くなるように弁護活動した・・・・☆3項×?
⇒ 弁護士の弁護依頼契約が「暴力団の活動を助長し、又は暴力団の運営に資すること」になるかという問題点があるわけですが、弁護士には刑事事件の弁護をする義務がある(正当な理由がないと弁護依頼を拒否できない。)という立場に立てば、条例15条3項但書の「法令上の義務として利益の供与をする場合」となり、禁止行為にはならないと解釈されます。
④⑤⑥あたりの取引は、事業者にとっては酷なようにも見えますが、処罰規定ではなく、契約関係の説明やその際の相手方の資料を提出する義務、警告を受けるというだけの不利益であり、その効果は今後の暴力団情報を警察に提供するという有意義な効果ですから、禁止行為とされても社会的に相当な制約にすぎないと思われます。
☆次回(次回「~条例で禁止される行為と暴力団等の人権~」へと続きます。 )
地方公共団体と暴力団排除条例について3
弁護士法人近藤日出夫法律事務所
弁護士 近藤 日出夫
8月1日に「宮崎県暴力団排除条例」が施行されました。7月26日には、宮崎県、教育庁、県警本部を中心に民間業界等約500名の県民が集まり、暴力団排除条例施行に向けての県民総決起大会が開かれたようです。
さて、このように、条例で「暴力団である」というだけで、処罰されたり、契約を締結してもらえなかったりする取り扱いは、法律上許されるのでしょうか?
【条例で禁止される行為と暴力団員等の人権】
1.憲法の法の下の平等との関係は?
法律上の問題としては、宮崎県暴力団排除条例により、暴力団や暴力団員は県内の事業者から取引をしてもらえないことになり、暴力団であるというだけで、本来人間が享有している衣・食・住に関する生活する権利を不当に侵害され、法の下の平等の原則(憲法14条)に違反しているのではないかという点が問題になります。条例は、法令の範囲内で定めるとされており、憲法や法律に反する条例の定めは違憲・無効となるからです。
確かに、憲法14条1項は「すべての国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と定めており、「すべての国民」の中には暴力団組長や暴力団員も含まれるでしょう。
しかし、裁判例では、「合理的な根拠に基づいて各人の法的取扱いに区別を設けることは憲法14条1項に違反しない。」(最高裁判決平成7年12月5日)とされています。
また、条例による各都道府県の取扱いの差に関しても、「憲法が各地方公共団体の条例制定権を認めている以上、地域によって差別を生ずることは当然に予想されることであるから、売春取締条例によって地域差が生じても違憲とはいえない。」(最高裁大法廷判決昭和33年10月15日)とされており、条例で暴力団員等の人権を制約することは可能とされています。
2.暴力団に水道を供給するのは?
問題は、暴力団であるというだけで、本来人間が享有している衣・食・住に関する生活する権利(取引する権利)を制約することが合理的根拠に基づくものかどうかです。
この点で、国の行政解釈として、ひとつ気になる解釈があります。電気事業法18条や水道法15条には、事業者が「正当な理由がない限り、電気(又は水道)の供給を拒否してならない。」旨の定めがあります。
この解釈で行政当局は「暴力団であること」は「正当な理由」にはならないとの解釈をしているやに聞き及びます。前回の取引実例⑦「暴力団事務所と知って、水道供給契約をして水道水を提供した」場合を「法令上の義務」だから、条例15条3項但書により禁止されないとする結論が、その結果です。このような解釈を基本にしますと、暴力団員でも衣食住にかかわるライフライン関係の取引や契約は、条例で禁止できないのではないかという考え方が出てきます。
それに対して、「暴力団員であることは、電気供給や水道供給を拒否できる正当な理由になる。」との解釈になれば、大きな暴力団排除対策として電気や水道の供給停止が可能になります。
3.裁判例からみれば暴力団への法的規制の許容性
最近、衣食住の「住」に関して、公営住宅から暴力団員を追い出す条例(公営住宅使用許可取消と明渡要求)が憲法14条違反ではないかが問題とされた判例が出ました。 広島地裁平成20年10月21日判決及び広島高裁21年5月29日判決では、10年くらい前から市営住宅に居住している暴力団員を後で条例改正(平成16年に暴力団員への住宅使用許可は取り消すとの暴力団排除条文の付加改正)をして使用許可を取り消して暴力団員に対して明渡しを要求した事案で、
- 「暴力団員であることをもって平等取扱いをしないとする点はそのとおり である。しかしながら、上記地方自治法の該当条項に照らせば、市営住宅の適正な供給とその入居者ないし周辺住民の生活の安全と平穏の確保という観点から暴力団員であることを理由として市営住宅の供給を拒絶することは相当であって不合理な差別であるということはできない。」(広島地裁判決)
- 「暴力団構成員であることのみによって差別することは憲法14条に違反すると主張するが、 暴力団構成員という地位は、暴力団を脱退すればなくなるものであって、憲法のいう「社会的身分とはいえず、暴力団のもたらす社会的害悪を考慮すると、暴力団構成員であることに基づいて不利益に取り扱うことは許されるというべきである。(合理的な差別であるので憲法14条に反するとはいえない。)」(広島高裁判決)
との判断をしています。
これによれば、衣食住に関するライフライン関連取引であっても、「暴力団員であることを理由に、取引禁止・契約拒否をしても、憲法違反にならない。」との解釈の方向性が示されたことになります。
私も宮崎県暴力団排除条例は、憲法の平等原則に反する条例ではないと考えます。 以上
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